賞とわが国の品質管理の発展
デミング賞のうち、特に組織に与えられるデミング賞が、直接、間接的に日本の品質管理の発展に与えた影響は、はかり知れません。
デミング賞に挑戦された組織は、そのときどきの経営環境に応じた、時代が要求する新たな品質管理(「品質経営」といってもよい)を模索し、自らの組織にとって効果的な品質管理の方法を開発して、それを仕組みとして構築し、実践してきました。
自ら挑戦した組織にとって、それは、品質管理によるレベルの向上とともに経営的に成功することができるという「経営における一つの理念」を実感する貴重な体験であります。それらの組織の方法論に啓発され、新たに品質管理に取り組む他の組織にとっては、品質管理が経営における成功の重要要因であることの実証を目の当たりにし、賞への挑戦は数々の有益な方法論を学ぶことができる絶好の機会であります。こうした波及効果が品質管理の方法そのものの発展を促し、組織におけるレベルの高い実践を生むことにつながってきています。
こうした自己成長を促すメカニズムは、デミング賞における審査の仕組みにあったといえます。もっともそれは、デミング賞の採点基準が不透明・不明確という指摘を受ける一つの要因にもなりました。そこで、より審査の透明性を高め、デミング賞の意図するところをわかりやすく伝えるために、この度、「評価基準」を明示いたしました。
しかし、審査そのものは、それぞれの組織の状況を反映したものとすべきであるとの基本的な考え方は変わってはおりません。
デミング賞の審査は、デミング賞委員会が提示する品質管理のモデルへの適合を求めるのではなく、自ら状況認識をし、課題と目標を定め、組織をあげた改善・改革を行った結果とその過程、そして将来にわたる有効性を評価しようとするものです。審査委員は、その組織の実状にあった課題が設定され、その組織の実状にふさわしい取り組みがなされてきたか、その活動により、将来より高い目的達成の可能性が期待しうるかを審査することに努めています。
デミング賞委員会は、デミング賞審査をいわゆる「審査」というよりも「相互啓発」と考えています。もちろん審査は第三者の委員によって行われますが、その判定はTQMに対する取り組みの姿勢、運営の状況、得られた成果などを総合的に判断することによってなされます。デミング賞委員会が問題を出すのではなく、問題も対応も受審する側が用意するという意味であり、ここに発展の要因があります。
このようにして、構築された日本のTQCは1980年代米国へ逆移転され、米国企業の復活に大きな役割を果たしたといわれています。「日本のTQC」は欧米では訳語としてTQMとされ、日本でも国際慣行にしたがってTQMと呼ぶことにしました。
この変革の時代に安易な道などありません。他人から与えられた問題に解答するだけで優れた品質マネジメントシステム、経営システムが構築できるとは思えません。自ら考え、自ら高い目標をおき、自ら挑戦する、デミング賞は、そのようなTQMを計画し、実践しようとする組織の経営改善・改革の道具になりうることをねらいとしているものであります。