Mail News Archives
 検索
   
SQC(統計とビッグデータ)
SQC

ビッグデータ時代におけるものづくり品質革新2-デンソーにおけるデータサイエンス教育の実際-<2015年12月01日>

■デンソーにおける取り組み


デンソーでは、異常検知は専門家の仕事であると割りきって、異常検知に取り組む技術者に対する専門家のサポートを強化するという方策をとっている。
その一方で、やはり、技術者の要求であるデータ可視化や要因解析手法については、技術者の素養として身に付けなければならないと考え、既に社内教育を実施している。
従来の重回帰分析に代わる高次元の回帰問題に関して、1996年、スタンフォード大学のティブシャアーニ先生が提案した画期的な方法が、その答である。それはL1ノルムの罰則を付けて回帰する方法、罰則付き回帰lassoである。このlassoは恐るべき手法で、変数間に線形制約が存在しても、また、全ての変数間の交互作用を取り上げることによって変数の数がデータ数を上回っていても、解析できる手法である。
罰則付き回帰は、別名L1正則化回帰とも呼ばれる。これを使うことにより、ビッグデータの重回帰分析が可能となり、要因解析が実現できる。
ところで、デンソーでは、教育の開始前、lassoを積極的に使いたいと考えたが、技術者が理解しているのは従来のSQC手法である重回帰分析までであり、理解するにはハードルが高すぎるという壁にぶつかった。
そこで、XTXの逆行列がランク落ちによって求められないときの便法としてのリッジ回帰を紹介し、まずは、そこで行われていることが、いわゆる行列の正則化であることを理解してもらった。その上で、それがどのようなノルム(距離)を最小化しているのか、さらには、罰則項を図示するとどんな形をしているのかを見せることによってどのようにして回帰変数が獲得されてくるのかを徹底的に理解してもらった。
図2は、解説に用いた図であるが、罰則項の重みλを変化させるとともに図も変化し、どのように偏回帰係数βが決まってくるかが直感的に分かるように工夫してある。


図2.L1正則化におけるノルム第1項と第2項(第1象限のみ)

 
L1正則化



さらには、工程内から得られた実データを使った演習によって、自らの手で解析できることを実地で技術者に体験してもらった。受講後の感想は「イメージが掴みやすかった」、「ネットでは何のことか分からなかったが、動画を見て理解できた」等、大変好評であった。


■まとめ
今、学会や上級データサイエンティストはどんどん先を行っている。だが、インダストリー4.0など実際にビッグデータを使った変革を担うのは、技術者たちである。だから、社内教育として立ち上げた技術者向けデータサイエンスコースはSQCの半歩先を行けばよいという考え方で構築している。実際にデータに対峙する技術者に使ってもらわなければ意味が無いからである。
日本科学技術連盟で開催される「モノづくりにおける問題解決のためのデータサイエンス入門コース」も、古典的SQCからは一歩踏み出すものの、ビショップ本に載っているような数年先にならないと一般的な解析ソフトで処理できないような手法は敢えて取り上げることを避けている。なぜなら、技術者たちが日常的な問題解決に使ってこそ、手法としての価値があると考えているからである。ただし、異常検知に関しては、専門家育成という観点から、しっかりと理解して頂く予定である。
もうひとつ、申し添えておくべきことがある。 罰則付き回帰など最新手法は、現時点では一部の統計ソフトしか搭載していないため、教育ではRを使って処理する。ただしプログラミングは講義内で解説するため、プログラミングに関する知識は全く不要である。必要な事前知識は古典的SQCの知識であるが、自信の無い人向けに予備講義を行う予定である。
さらに付け加えるならば、技術者でなくても、罰則付き回帰など、古典的なSQCから一歩踏み出したいということで受講を希望するのであれば、製造業の分野以外からの参加も大歓迎である。
 

関連セミナー
 
戻る
Profile

      吉野 睦
    (よしの むつみ)
(株)デンソー 品質管理部 TQM推進室 担当次長、博士(工学)
主な著書に『シミュレーションとSQC―場当たり的シミュレーションからの脱却 (JSQC選書)』(共著、日本規格協会、2009年)、『パラメータ設計・応答曲面法・ロバスト最適化入門―JUSE‐StatWorksオフィシャルテキスト (実務に役立つシリーズ)』(共著、日科技連出版社、2012年)

関連記事

2025.01.10

BC-News…

 
 
〈お問い合わせ先〉一般財団法人 日本科学技術連盟 品質経営研修センター 研修運営グループ
〒166-0003 東京都杉並区高円寺南1-2-1 / TEL:03-5378-1213
Copyright © 2021 Union of Japanese Scientists and Engineers. All rights Reserved.