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BC-News(BC講師からのメッセージ)
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38.私の品質管理今昔帖<2023年01月10日>

日本大学 名誉教授
市村 隆哉 (25BC・T修了)

 私は、1963年、早稲田大学理工学研究科修士1年の時、指導教授である村松先生のアドバイスにより、25BCの書記として参加させていただいた。現在も大活躍しておられる狩野紀昭先生など、いずれも元気な若い仲間と最前列に陣取り、石川馨先生からは、講義途中に突然質問を受け、とにかくBC講義中は緊張し、びくびくしながら必死にノートを取ったものである。

 書記を契機に、講師としてBCのいろいろな仕事に参加することになり、中でも「班別研究会」は、123BCに至までの50年間にわたり指導講師を務めさせていただいた。

 また、BCを通じで学んだ様々な考え方や手法は、私の以降の研究を進める上で大変有効であった。私の専門分野である生産管理学の研究に大変役に立つ示唆・方法を学ぶ機会が多く、大変感謝している。

 そのいくつかを挙げると、
*統計学・確率論に基づくものの見方を学んだこと。
*木暮先生、水野先生が良く提唱されていた品質特性(あるいは製品特性)を下敷きに、新製品の商品特性表が開発されたこと。
*『融合モデルに基づく新製品開発システムの研究』では、開発プロセスの情報行動の分析で赤尾先生の『品質機能展開法』が応用されたこと。
*様々な統計解析手法が実験データの整理、スケジューリングの特性解析に大変役立ったこと
等、枚挙にいとまがない。

 当初、大量生産の不良品減少として品質管理が考えられ、定量的解析手法としての統計手法の講習がBCの主眼と理解していたものが、時代の経過と共に品質管理の対象、目的が多様化し、品質管理に対する考え方が変化し、更に顧客満足の品質中心になり、様々な生産方式にもQC手法や考え方が導入され、そして『品質管理』から『品質経営』に変化していった流れは大変良く理解でき、長い班別研究会の指導に当たって、私なりにこの時代の変化、品質管理の発展を理解し、インストラクションからはやや逸脱していると思いつつ、ものの見方、問題解決の方法などを工夫して受講生にコメントしてきたつもりである。また一方、研究面においてもQCは重要な柱の一つであったが、未だに頭を悩ませ、BCとの関係が理解しきれていないのは、『品質経営』についてである。

 1977年に日本大学商学部経営学科へ移ってからは、日科技連で使われる用語、概念が、経営学でいう『経営』と異なり、大変とまどいを覚えた。

 1989年7月に大阪で開催された第29回International Conference of TIMSにおいて研究発表をしたとき、司会者の赤尾洋二先生から、『”Quality Management”を何と訳しましょうか、「品質経営」でよいでしょうか。』というご質問を受けたとき、「まだ品質経営という言葉は一般に市民権を得たとは言えないので、下手に英語に訳さなくても良いのではないでしょうか」とお答えしたことを覚えている。
 また、日本大学商学部の情報科学研究所紀要に論文を書いたときにも、経営学科の先生方から、Quality Management と経営学はどんな関係があるのかと質問されたことがある。

 理工系の大学で育った間は、マネジメントの手順を、PDCAのサイクルとして捉え、また『全社的品質管理』を『マネジメント・システム』とし、これを支える情報行動を総称して情報システムとして捉えることで何となく了解していたが、商学部の教員として講義を担当するに及んで、品質経営に関する考え方の乖離に頭を悩ませ続けた。

 一方、本家の日科技連ではこの問題をどう捉えているのか気になり、先日も、ISO委員会に出席した際に雑談として、「品質経営をどうお考えですか」と委員の先生、事務局の方々に質問したところ、「それはISOシリーズで挙げているプロセスのことです」と何の疑問も持たずに答えを頂いたとき、ここでは経営とかシステムとかいう言葉は使うが、基本的にはいわゆるマネジメント・サイクルの域を出ていないのかと感じた。

 この様に時の流れに翻弄されつつも、品質管理を旨とする班別研究会に携わらせていただいて40年以上も経ってしまったが、今日もBC参加者が持ってくるテーマは相変わらず殆どが改善問題を取り上げ局地戦争をしているし、結局、参加者がBCに求めているのは統計的手法の習熟のみであったのかと何かむなしく感じるようになっている。

 私にとってBCは恩師でもあり、有益な経験であり、深く感謝しているが、同時に次の世代をリードする新たな管理技術、研究開発と製造をドッキングした融合システムの提案・啓蒙など、次の飛躍を目指したイノベーションを日科技連のコース、活動に求めるのは年寄りの繰り言であろうか。

 
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