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BC-News(BC講師からのメッセージ)
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35.「原点」を持ち、そこに還る<2023年01月07日>

関西大学 経済学部 教授
橋本 紀子 (95BC・O修了) 

 人生、どんなきっかけがあるかわからないものです。

 私は経済学部出身で、経済データに統計手法を応用し、実証的に経済現象をとらえる計量経済学の研究者です。技術とは縁がありませんでした。そして、統計学絡みで品質管理に係わったのでもありません。たまたま Tex というソフトウェアを知っていたことから、ベーシックコースの確認テスト(ST)の Tex 化作業をお手伝いしたことがきっかけでした。 

 問題入力の間に自然と問題を読み、なるほどこんな風に統計学が実務に使われているのか、技術者の視点から見ると経営・管理はこのように捉えられるのかと興味深く思っていました。 

 そのうち、ベーシックコースの書記をしてみないかと声をかけていただきました。いずれは講義等を手伝って欲しいけれど、今でも特定の手法なら教えられるだろうが、まずは一番体系的なコースをし っかり受講し、全体像を理解してから教える立場に立って欲しいとのことでした。 

 不安も感じましたが、STの問題を読むほどに学際的で面白い分野だなと思っていたこともあり、お引き受けしました。

 ご存知のように、ベーシックコースはとてもタフな6ヶ月間です。毎月朝から晩まで続く5日間の講義もさることながら、いくら書いても終わらない(と思えた)宿題問題、もう少し早くから準備すればいいのに日曜の夜が憂鬱になるSTの準備、まるで「学校」時代に戻ったようでした。受講者として多くの先生の講義を聞かせていただき、あらためて自分の教育法や学生への接し方について反省し、多くのことを学びました。

 ベーシックコースで学び品質管理に携わる中で、さまざまな形で「別の視点から物を見る」ことを学びました。現場目線でのものの見方もですが、他領域での統計学の使われ方について知ったことは大きな収穫でした。

 品質管理と経済では、統計手法を用いる際、注意を払う点、重点を置くところが違います。用語の違い(回帰分析の寄与率を、経済系では決定係数と呼ぶ等)等の形式的なこともありますが、経済系では安直にデータを扱っている面があると何度も反省させられました。有効数字にさほどこだわらない点(例えば金額表示した場合、あまり小さな桁まで問題にしません)もさることながら、外挿が無意味かつやってはならないことだと実感できたのは貴重な経験でした。(当時はまだ右肩上がりの経済、変数の動きは多少の循環はあれどもトレンドに乗っていたこともあり、正直なところ安易な外挿は頻繁に行われていました。) 

 原点へ戻り、データは物を言う、でもその範囲内のことしか言わ(え)ないと今更ながら肝に銘じれたことは、研究の際にも、また教育の場でも大きく私の姿勢を変えてくれました。

 さて、「原点に戻る」と書きましたが、最後に私が品質管理に関わり続けていきたいと思ったきっかけを書いておきます。

 品質管理を勉強し始めた頃、何冊か古典的な品質管理のテキストを読みました。中に、石川馨先生の著書もあり、「大学卒業後の8年間の社会生活で、日本の企業、社会はどうしてこんなおかしなことをやっているのだろうと思っていた。品質管理を勉強してみると、QCを正しく適用することによって、日本の企業、社会のこれらのおかしな点をなおしていくことができると思った。」(『日本的品質管理』(日科技連)p.3)と読んで、電気に打たれたように感じました。私が経済学を志したときの気持ちと通じるものがあったからです。  

 私の専門は、家計消費の実証分析です。国内経済の、実態経済(非金融部門)の、非公共部門の、非生産部門の分析です。地味で、研究の旨味がない、おそらく一番流行らない領域ですが、一方で、この地味な分野の行動結果は経済全体の6-7割を占め、経済の動向を左右しています。QCからは外れますが、昨今の経済論議も、いろいろ難しいこと複雑なことは置いておいて、結局は経済が循環し(お金が廻ら)なければ景気はよくなりません。あるパイプが細くなり水が流れなくなれば、外から水を注ぎ入れても全体に水は廻りません。最終的に家計が使えるお金(例えば賃金)が増えない限りは、他をどう刺激しようと、経済は廻らないのです。

 当たり前のこと、本来そうあるべき(そうしかならない)ことは、派手さはありませんし、面白味もないでしょう。ただ、それを続けること、何かの拍子に外れてしまったときに戻すことはとても難しいことです。愚直に、当たり前のことを繰り返し行うこと、いつも原点を忘れず、障害を恐れずそこへ戻っていくこと。品質管理は、そういう姿勢をあらためて私に教え続けてくれています。 

 
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