
椿 広計氏、永田 靖氏 対談:AI時代の管理技術のあり方を問う(下)<2017年09月26日>

◇ビッグデータで何ができるか
永田:私は、実験計画法などを使ったオーソドックスな統計的品質管理活動に関わってきまし
た。最近では非常に大きなデータ、いわゆるビッグデータへの対処を含めて、今後、
どのようにSQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)を教育していく
か、教育の在り方にも興味があります。
椿 :ビッグデータだろうがAIだろうが、まず変わってはいけないのが問題解決の標準シナ
リオ、つまりQCストーリーだと思います。AIによってある部分が自動化できるにし
ても、そのシナリオの上で企業の問題が解決されるわけですから。そして、今まで自社
の中で行ってきた改善活動が、今後、直接エンドユーザーの接点においても経済的な価
値を与える方向に動いていく。そこにAIやビッグデータが入っていくだろうことは容
易に想像されます。
永田:これまでのQCストーリーを大きく変える必要はなく、どういうところをビッグデータ
やIoTで強化できるかが重要というご指摘ですね。
椿 :はい。かつて日本では、QCストーリーの中にどのようにQC七つ道具や新QC七つ
道具を配置するかの話があり、それを上手く配置することで、素晴らしい改善成果を
あげてきました。一方、ビッグデータを扱うデータサイエンティストは、可視化とい
ったアルゴリズムの機能についてはいろいろと言いますが、可視化が問題解決の標準
モデルのどのステージを高度化していくのかということを明確にしていません。
永田:機械学習の手法やビッグデータの解析手法をある程度パッケージ化して、QCストーリー
のどういう場面で使うのかを、品質技術者にもっと明らかにしていくとよいということ
でしょうか。
椿 :そこです。QCストーリーは基本動作で不変であるという前提で、それこそ実験計画法
や重回帰分析の延長にあるような話が、この分野ではどのようになっているかとアンテ
ナを張ってパッケージ化する。これは日本産業の競争力強化に、かなり貢献できるで
しょう。
永田:シックスシグマにしても、その基本所作はQCストーリーの中にあります。今、QC
ストーリーや品質管理を知らない情報系の技術者が仮にいるとして、その人たちが品質
管理を勉強したほうが早いでしょうか。
椿 :そうですね……逆にビッグデータを活用したコンサルテーションをしますよという情報
技術のベンダー系の会社が、そういう戦略をとる可能性はありますね。
永田:日本の品質管理の歴史をみると、自社で人材を育成して、その人たちが社内指導者と
なって、ある程度自力でやってきました。研究機関や大学などと協力して力をつけて
いくということはありましたが。基本的には、自社の技術者が考え方や方法論を勉強
して改善に向けたイノベーションをやってきたという流れです。
椿 :そうだとすると、現状のなかで、きちんとした外注機関をモジュールとして、QC
ストーリーに埋め込めるようなクオリティマネジメントができる司令塔を、情報部門
ではなく品質管理部門で教育していくという戦略はあります。この機械学習の方法は
こういうものだから、ここにはめ込めるということを適切にマネジメントし、外注し
たAIのoutputの評価がきちんとできる人材の育成です。
◇因果関係に注目する
永田:ところでAIは「因果関係は説明できないけれども予測はできます」ということが言わ
れています。前回も述べましたが、その現象が擬似相関なのか、それとも本当に因果関
係があるのか、技術者は、それを理解する力量を養わなければならないと思います。
椿 :そもそも品質管理に携っている技術者は、人間の行動をすべて予測できるなどとは思っ
ていませんし、感じてもいません。AIがいくら進歩したとしても、基本的に人間の
行動を支配するとしたら、全部パッシブな情報ではできるわけがありません。実験計画
法のようにアクティブに何かを語りかけ、その応答の中でやっていくことになると思い
ます。
永田:「因果関係がなくても予測はできる」ということは正しいですし、AIにより予測の
精度向上は期待できますが、因果関係がはっきりしなければ、良い製品をつくる条件
の設定はできません。つまり、精度のよい予測ができたとしても、因果関係がわから
なければ、今の状況を変えることはできません。
椿 :やはり、QCストーリーのように、対策を打つためには要因解析や原因分析が必要で
すし、結果を評価するところは、ビッグデータというより実験的なアプローチが必要
です。そこは今までと何ら変わりはありません。唯一ビッグデータで変わるとしたら
その前の「問題を発見する」という現状把握のステージです。そもそもビッグデータ
で予測をするといっても、平均値の予測なら大きなデータを使わなくてもサンプリン
グすればいいのですから。ただし、ビッグデータの良い点は、外れ値がたくさん出る
ことだと思います。
◇異常検知に役立つビッグデータ
永田:異常検知は大きなテーマです。しかしこれは、昔からやっていたことです。
では、ビッグデータの活用というのは、どこがポイントになるのでしょう。
椿 :今のAIや機械学習に期待しているのは、異常検知と、もう一つは囲碁の話の
ように、いいプレイヤーをつくることです。すなわちロボティックスのように
工程や現場で自律的に判断して制御を行う、そういう技術として投入することは、
いくらでもあると思います。管理技術というよりモノづくりにIoTが入ってくる
という感じでしょうか。品質管理で使われていた分析原理が、製品や工程のなかに、
そのまま組み込まれるというなら理解できます。
内部に自律的に問題を解決する、要するに収集したデータから、どうするのがいい
のかを見つけるロジックが組み込まれていて、それが機械学習やAIということなら
結構なことだと思っています。ただし、そういう分野の専門家が日本にどれくらいい
るのか、少し心配です。
永田:そういう情報を利用して新製品開発をするとき、品質保証、品質管理の新しい形が
生まれてくるということでしょうか。
椿 :仮に自動運転に対して事故を起こさないように品質保証をしようと考えます。
その際、目的地までの地図情報に従って交通状況がこうだから、こう動きま
しょうというのは今のロボティックスの諸要素を組み合わせて使えばできると
思います。一方、奇妙な行動をする他のクルマや歩行者に対して事故を起こさ
ないことを考えた瞬間、自分たちの最適な行動のモデルと、自分たちの行動を
邪魔するモデルと、二つのモデルが出てくるわけです。
ここに、田口先生の品質工学の世界で、自分たちの特性を最適にする世界と、
自分たちの行動に対してノイズになるものを常に直積で考えるという原理が活
用できます。機械学習の人たちからすれば、その原理はすでに織り込み済みと
言っていますが、日本の品質管理技術の中でやってきたことのほうが、より普
遍性のある原理であり、それ自体をもっと体系的に明らかにして活用していく
べきでしょう。
品質管理や品質工学の基本理念を、AIの時代だからこそ明確にしておかなけ
ればならないと思います。
◇AI時代の技術の伝承とは
永田:すべての教育を内製というのは、技術的にも進化しているので難しいと思いますが、
かつて品質管理関係の指導者は、自分でやってみせて、次はあなたがやってみなさ
いという指導で進め、技術者が伸びてきました。昨今の風潮のように、「餅は餅屋
に頼んで解決できたらいい」ということばかり進んでしまうと、日本の強みであっ
た現場力はどうなってしまうのでしょうか。
椿 :ある部分、自分たちのノウハウをもっておかなければ、結局は企業競争力がなくなっ
てしまいます。
永田:いろいろな技術をつなぐ力というのがあり、企業では、部署をローテーションさせ
ながら人の力量をあげてきました。それが、難問はベンダー企業に任せてというよ
うに割り切ってしまうのは、いかがなものでしょう。任せるような問題ではないと
いうものもたくさんあると思います。
椿 :情報処理学会で、AIに全部任せて改善活動を行い、それなりの効果が出てくると
いうことに対する危惧が、東工大の出口弘先生から示されたことがあります。本当
に、その企業の組織能力というか、人の創造性や自律性なくして、問題さえ解決で
きればよいのかという疑問です。もちろん、きちんと戦術をたて、その場だけでの
解決ではなく、プロセス自体の改善について自分で評価ができるという力量を日本
の企業がなくしてしまったら大変でしょう。AIを使おうが、最低限、それがわか
っているということが大事ですね。
永田:AIのアウトプットや解釈を理解するためには、現在の品質管理教育では何が
抜けているでしょうか。
椿 :私は、先進的なコースを設計するのであれば、QCストーリーにモジュールとして
AIを接続する方法がよいと思います。そのためには、そのAIが持っている機能、
つまり入力情報が何で、出力が何で、この方法は本質的にどういう変換を行って価
値を形成しているのかという機能を整理していく必要があると思います。AIやら
深層学習やら不思議なものに思われがちですが、機能という観点でとらえれば他の
初等的な統計技法と大差ないと思います。情報技術の基本機能というようなものと
適用上の注意事項、適用範囲は、きちんと教育しておくべきでしょう。
永田:日本の品質管理教育では、テーマ改善教育を同時に行いました。座学だけではなく、
講師がマンツーマンで「このテーマは、まだ習ってないと思うけれども先に勉強し
て分析してみなさい」というように道案内をする。だから日本では、いわゆる「改
善の名人」が育ってきたと思います。今後、AIやIoTの時代となっても、今ま
でと同様に名人を育てることができるのでしょうか。
椿 :教育プロセスの質の保証の問題ですね。人間の品質教育、エキスパート教育をしっ
かり進めるためには、何ができるから名人なのかというところをきっちり示してお
きたいですね。今、品質管理検定(QC検定)のレベル表などは1級だったらこれが
2級だったらこれができると全部書いてあり、一般の人が見たときに「なるほど」と
思うことが多いです。
永田:品質管理教育のあり方に加えて、AI時代の管理技術のあり方について幾つかの
観点からお話を伺ってまいりましたが、製造業で長年にわたり培われてきた管理
技術は、AI時代でもその有用性は変わらないということですね。本日は有難う
ございました。

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永田 靖 氏(写真右)
早稲田大学 創造理工学部
経営システム工学科 教授
1985年 大阪大学大学院卒業後、熊本大学講師、岡山大学助教授、教授を経て1999年から 現職。
現在、応用統計学会会長、一般社団法人日本品質管理学会理事、デミング賞委員会委員、日科技連 品質管理セミナーベーシックコース 運営委員・東京幹事長 など。
椿 広計 氏(写真左)
独立行政法人 統計センター 理事長
筑波大学名誉教授、統計数理研究所名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。
1982年 東京大学大学院卒業後、筑波大学大学院経営政策科学研究科助教授,同ビジネス科学研究科教授、統計数理研究所副所長,教授を経て2015年から 現職。一般社団法人日本品質管理学会会長、日科技連 多変量解析法セミナー運営委員 など

