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グローバル時代は博士人材を積極的に活用しよう!(2)<2016年02月18日>

■博士の好循環へ目指す


時期を同じくして、当時旭化成株式会社顧問の府川伊三郎氏により「博士の悪循環から好循環に」が提案された(3)。


図1 博士の悪循環と好循環

博士の好循環の実現ができれば、ポスドクや博士学生のキャリアパスの問題はほぼ解決すると考え、イノベーション創出人材育成プログラムを作成して、社会ニーズに対応した博士人材教育システムの制度設計と徹底したキャリア支援を行うことにした。また、企業等の研究部門で1ケ月以上のインターンシップを行うこと付加するものとした。


図-2 博士の好循環サイクル

博士の好循環は大学から始めることがポイントであり、後工程となる企業側の意見を聞きながらPDCAを回す形で推進することとした。


図-3 博士人材育成システム

図-2のサイクルの中で、大学が推進する部分として、図-3にあげた人材育成システムを立ち上げた。どのコースに進むかは最初に個人面談をして決めることになる。社会ニーズに対応した博士人材育成のための高度技術経営塾は年間100時間程度の講義とグループ討論などからなるが、毎年35-50名程度の応募者があり、落伍者が少ないばかりか、卒塾生を採用した企業からは、リピーターとなって卒塾生を希望するケースもある。塾のカリキュラムは図-4の通りで、企業に就職した際に、コミュニケーション力の必要性や取り組むテーマなど、大学の研究室と異なることに対して違和感が無いように社会人基礎力を体得する内容になっている。なお、平成26年度から高度技術経営塾をイノベーション創発塾と改称した。


図-4 イノベーション創発塾のカリキュラム構成

 平成26年度からは、せっかく習得したスキルなどを活用する形で、PBL(Project based learning)による課題設定・解決力養成コースを付加した。
平成18年度当初はポスドクが多く応募してきたが、5年後には博士1年の学生が過半数を占めるようになった。研究室での専門知識や専門技術習得と学位論文研究のみでは社会で評価されにくいと判断した博士学生やポスドクが応募してくるが、きっかけとしては、先輩の卒塾生や指導教員から勧められたと言うのが半数以上を占めている。
塾とは別に、図-3にある中長期インターンシップを希望する博士学生が年間30名前後いることと、キャリア支援を希望する博士学生やポスドクが年間80名程度おり、それぞれに個別面談して個人のニーズに合ったマッチングに努めてきた。
博士学生やポスドクとの個人面談を進めている中で分かったことがある。
・皆が優秀で、できれば自分の研究を通して社会の役に立ちたいという志を持っている。
・学位論文研究が忙しく、特にバイオ系学生は動物実験や菌株などを扱っている為、長期間研究室を空けられない。インターンシップはもとより就活も厳しい。
・企業情報は指導教員からほとんど入ってこなく、自ら収集しなければならないが、どうやったらよいかわからない学生が多い。
・指導教員の中には、研究優先のため、学位取得のめどが立つまで就活禁止令を出す者もいて、研究室に内緒で就活を進める学生もいる一方で、積極的に当センター利用を勧める指導教員もいることが分かった。
・応募書類(エントリシート)はパスするが、面接で不合格になる学生が多く、志望動機を的確にこたえられない学生が多い。狭い専門領域での研究のみに明け暮れている為に、ものごとを俯瞰した見方が出来なくなっていることから、T型人材の育成の必要性を感じた。
図-3、図-4のシステムおよびカリキュラムを進めるうちに、特に高度技術経営塾で学ぶ塾生の変化が顕著な形で現れた。もともと年間100時間を超える時間を研究以外のことにかけて学ぼうとする志の高い博士学生たちであるが、派遣元の教授からは、「研究室内のマネジメントをしっかりやってくれるので非常に助かっている。該当者がいたら全員に入塾させます。」、塾の講師からは、「卒塾近くになったら、問題のとらえ方や表現の仕方が全く異なり素晴らしい。積極的に発言するようになり頼もしい限りである。」、 卒塾生を採用した大手企業の研究所長からは、「自ら課題を見つけて、マーケティングから企画、研究開発、論文化や特許出願、顧客との打ち合わせなどをすべてこなしている。」などの高い評価を聞くことができた。
同時に推進している「中長期インターンシップ」への参加も似たような効果が期待できる。参加した学生やポスドクの感想をまとめたのが図-5であるが、当然のごとく研究室では得られない体験ができること、研究の目的が明確になること、安全管理や時間管理の大切さなどに加えて、期間中に寝泊まりする社員寮での社員たちとのコミュニケーションも非常に刺激的のようであり、手取り足取り教えられるのではなく、気付きを中心とした自己研修の場となっている。
インターンシップを受入れた企業側からは、「若い研究者が入ってきたために、職場が活性化した」、「懸案であった課題解決の方向が見えてきた。」などの高評価が多く聞かれた。キャリア支援の一環で、年に一回企業の研究開発部門の幹部をお招きして、博士学生やポスドクとの交流の場を設営し、相互理解を深める機会を作ってきた(博士のキャリアパスフォーラム)。毎回の参加者は博士学生が中心で70名程度となり、熱心な質疑応答がなされ、「企業が博士に期待することが良く理解できた。」、「企業での博士のキャリアパスが良くわかった。」という感想と合わせて、企業側参加者からは、「期待が持てる学生が多い。インターンシップや研究所見学を受入れてもいい。」などの感想がだされている。また、グローバル化の中で企業の幹部からの話が興味深く聞こえた。「海外企業との打ち合わせで渡航する場合、先方から、参加者名簿を事前に求められることがよくあるが、こちらのリストにドクターが居れば、先方もドクターを含めて責任者がでてくるが、こちらにドクターがメンバーとして入っていない場合は、先方も権限のある者がでてくることはほとんどない」と。


図-5 インターンシップ参加者が学んだこと

国際的には、ドクターは研究者としてのライセンスみたいなものであり、それがないと相手にされない時代になりつつあると言えよう。
また、事業のグローバル展開を見据えて、中国人留学生の博士学生を採用したいので紹介を依頼されるケースも多くなっている。留学生は修士課程から数えて5年間は日本に住み、地域や文化を理解しているし日本語もかなり出来るため、日本人や現地で雇い入れた人材を教育するよりも手堅いのではないかと提唱している(4)。
経団連と大学との申し合わせで学卒の就活時期が色々と変わる時代に、博士学生はその縛りの枠外と位置づけられているため、博士学生の採用を修士以下の学生の時期よりも早めた形で進める企業が多くなりつつある。10年が経って、色々な施策の結果、博士学生のインターンシップ受入れや採用人数も増えてきており博士学生の評価が高くなったものと考えている。

■まとめ
これまで10年間にわたってポスドクおよび博士学生を中心にイノベーション創出人材育成とキャリア支援を行ってきたが、まとめると次のようになる。
・グローバル社会では博士の存在がますます必要とされる。
・大学は、博士学生に対して、研究一辺倒ではなく、社会人基礎力やマネジメント力、コミュニケーション力、リーダーシップなどを備えたイノベーション創出人材としての育成に取り組む必要がある。
・大学は、博士学生のキャリア支援を指導教員に任せっぱなしにせずに、組織として体制を整備確立しなければならない。また、企業側はそのような支援体制が出来ている大学の博士学生を採用することを公表すると、大学側も真剣に考えるはずである。
・企業側は、1ケ月以上のインターンシップとして博士学生やポスドクを受入れ、相互認識と気づきの機会をつくる。
・博士人材は、総じて優秀であり、情報収集の機会を作ってあげれば問題ない。
・指導教員は、イノベーション創出博士人材育成のためにこれまでの研究一辺倒の意識を変えることと、企業側は博士人材を戦略的に活用すると言う意識を持つ必要がある。

<参考文献>
(3)府川伊三郎;「博士人材の積極的採用を」,化学経済2008年2月号
(4)高橋富男;「グローバル人材育成の課題と大学での取り組み」,Business Research 2014.5.6.p38.

 
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Profile

髙橋富男

東北大学 高度教養教育・学生支援機構 高度イノベーション博士人財育成ユニット 事業統括主幹(工学博士)

1964年東北大学工学部卒業。大手非鉄金属企業で、研究所、電子材料事業部門などの多角化部門、中央研究所副所長、研究開発本部開発企画部長、技術情報部長などを歴任、社内ベンチャーとして、日本照射サービス株式会社を企画し立上げ代表取締役社長。2003年工学博士(東北大学)。2004年1月から東北大学にて知的財産部門整備事業を担当、産学官連携推進本部副本部長、2009年から高度イノベーション博士人財育成センター副センター長、2014年4月より現職。2004~2011年東北大学客員教授。

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