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TQM(品質・改善・とマネジメント)
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TQMによる営業プロセスの構造改革 トヨタホーム 後藤裕司常務に聞く(前編)<2017年10月20日>

​(聞き手は、ジャーナリスト伊藤公一氏)

――トヨタグループにおける貴社の存在意義をどのように受け止めておられますか。
後藤:当社の源流を遡ると1975年に新設されたトヨタ自動車工業(株)の住宅事業部に行き着きます。その後、2003年に営業部門を分離してトヨタホーム(株)を設立。そして、2010年にトヨタ自動車(株)から完全に独立して現在に至ります。そのような経緯の中、当社はグループ17社における住宅事業を担う会社という重いミッションを与えられています。
 トヨタにおける住宅事業は戦後の焼け野原を目の当たりにしたトヨタ自動車創業者、豊田喜一郎の「人は皆、ある一定水準以上の住宅に住む権利を有すること」という思いから始まっています。その精神は現在も連綿と受け継がれていると思います。

――販売に際して、代理店制度を導入している点にトヨタイズムが感じられますね。
後藤:当社は他の住宅会社と比べて2つの大きな特徴があります。第一には販売店を通じて商品やサービスを提供する「代理販売制度」を採用していることです。おっしゃるように、トヨタ流の車のビジネスを活かせる利点がある半面、お客様と直接接する機会が少ないという点があります。第二は多様な人材が混在していることです。入社以来住宅一筋のスタッフと自動車部門から異動してきたスタッフが混在していること。また新卒入社者とキャリア入社者の混在もあります。

■TQM強化前に抱えていた問題点

――2014年4月に本格的に始められたTQM活動にはそうした背景もあるのですか。
後藤:当社は中期的に「戸建販売業界五指入り」を目指して毎年、高い販売目標を掲げながら未達を繰り返していました。あからさまに言えば、製販共に目標達成に向けた意識が希薄だったと思います。
 実際、販売店の数社が赤字で「労働条件が悪い⇒良い人が採れない⇒売れない⇒赤字」という悪循環に陥っていました。将来に向けた人的投資マインドも低かったと思います。
 そこで「社員の一体感の醸成」や「販売力の強化」「販売店の収益体質強化」を急ぐためTQMを活用することにしたのです。目標として、経営の質向上と顧客志向に立った業務推進の重要性を全社員が共有することを掲げました。

――活動を強化するにあたって、当時の状況をどのように分析されたのですか。
後藤:大きく2つの問題点を抱えていました。まず、初回接客以降の商談歩留まりが悪かったこと。そして、若手の営業スタッフの3年以内の離職率が業界水準より高かったことです。2つの問題点を生む要因は3つあります。第一に営業スタッフがお客様に訴える強みやポイントが各人各様のため、うまく伝わらない。第二にお客様の質問に十分答えられないので、満足いただけていない。第三に売れないために若手営業スタッフのモチベーションが下がり、退職につながっている――。

■28通りもあったお客様への訴求点

――トヨタのブランド力があるのに、商談の歩留まりが芳しくないのはなぜですか。
後藤:まず、営業スタッフがお客様に伝える内容がバラバラであることと、その内容自体、お客様の購入重視項目と必ずしも合致していないことが原因です。
 例えば、営業スタッフ400人にトヨタホームの何を売りにするかを調査したところ、保証、品質、耐震性など28通りのポイントが出てきました。もちろん、一つひとつはそれぞれ大切なことであり、全て正しいことですが、あまりに多すぎるのでお客様にとってトヨタホームは何かわかりづらいと思いました。それまでにもCMやホームページ、告知方法を変えるといった地道な努力を重ねてきたものの、決定打にはならなかった。そこで、伝える内容と伝え方をお客様の視点で見直すことにしました。後ほど触れますが、一定の効果は出ているように思います。

――確かに最近のテレビCMでは「長く住める」ことを強調していらっしゃいますね。
後藤:TQM活動強化前の2014年度まで訴求していた「スマートハウス」を2015年度から「60年長期保証」に変えました。当社が押したPRポイント(IoT的な利便性)とお客様の購入重視度(耐震性、耐久性、長く住めることなど)がミスマッチしていたからです。
 このため、社内横断のチームで徹底的に議論して、建てるときの安心(品質力)、建てたあとも安心(保証力)、支える安心(企業力)という「3つの安心」を強く打ち出すことにしました。CMもその路線で見直しました。

■しっかり勉強している販売店は好成績
 
――低い商談歩留まりの要因分析では、営業スタッフの対応も問われていたようですが。
後藤:トヨタ自動車社員の中で「トヨタホームを検討したが、最終的には選ばなかった」理由を調査したことがあります。あえて厳しい言い方をしますが、その理由の第1位は「商品に魅力がない」こと。第2位は「営業スタッフの対応が悪い」ことでした。私たちが注目したのは第2位の理由です。お客様に直接理由を伺うと「住宅に関する知識が不足している」「接客マナーが良くない」という声が半分ほどを占めたのです。
 本当にそうなのか。トヨタ自動車従業員向けの販売を担う愛知県の販売店3社の協力を得て、住宅営業として必要と思われる知識レベルのテストを実施しました。2014年のことです。その結果、受注効率の良い販売店は総じて知識レベルが高いことを確認しました。

――問題点の2つ目に挙げられた若手営業スタッフの離職にはどんな手を打ちましたか。
後藤:新卒3年以内の離職率を同業5社と比べると、残念ながら業界水準を超えていたのです。その理由として最も多かったのは「売れないから」。実に、6割以上です。住宅は高額な商品なので、若手が右から左に売れる代物ではありません。一人前になるまでにはかなりの時間を要します。
 トヨタホーム販売店の新人の育成はこれまで、まず私たちメーカーがマナーや初回接客、ローン計算、商品知識などを2週間ほどカンヅメの集合研修で行ってきました。その後の育成の大部分は販売店に委ねられます。しかし、大手住宅会社の新人研修のやり方を学びながら、良い点を採り入れ研修期間も5~6月の2か月間と充実、強化しました。

■販売の活性化目指してTQM活動に力

――一連の問題点を踏まえた実際のTQM活動では何を重点にされたのですか。

後藤:大きく分けて4つの柱で臨みました。1つ目はトヨタホームの商談プロセスの標準モデルを作り、その効果をモデル店で確かめ、改善点を反映して全販売店に展開することです。2つ目は販売店の管理者が商談プロセスごとのスタッフの活動を把握し、人材育成や商談歩留まりの向上を推進することです。
 3つ目はトヨタホームと競合メーカーとは何が違うのかをお客様にしっかり説明できる準備をすることです。商談時にお客様は当社と他社とを必ず比較されるからです。4つ目は住宅営業として必要な知識を教えて営業スタッフに定期的なテストを受けてもらい、知識レベルの向上を図ることです。

――活動の手応えはいかがですか。
後藤:当社の商談プロセスを標準化した仕組みとしてTSS(TOYOTAHOME Sincerely for You Sales)を構築しました。活動を進めていく上でのバイブルでもあります。詳細は後編に譲ります。手応えをごく簡単な数字で表せば、昨年は目標の4150戸に対し、4153戸を販売しました。目標達成は実に10年ぶり。着実にPDCAを回し、行動量を増やした成果だと思います。

​(後編はコチラ)

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Profile

後藤 裕司(ごとう ゆうじ)
トヨタホーム 常務取締役営業センター長。
1983年にトヨタ自動車に入社。鋼材などの調達業務や海外事業体の調達活動支援など調達部門に16年間従事した。
その後、住宅部門に異動し2009年住宅企画部長として、トヨタ自動車からの分社化、ミサワホームとの提携強化などを担当。2010年トヨタホーム経営管理部長となり、同時にミサワホーム取締役歴任。
2012年トヨタホーム取締役、2015年トヨタホームインドネシア取締役を兼務。2016年から現職。

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