
SQC・ビッグデータのための統計解析ソフトウェア<2016年10月20日>

SQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)の実践において、統計解析ソフトウェアは欠かせないものとなっています。そして、標準化や維持コストなどの観点から、内製ではなく汎用の統計解析ソフトウェアが通常使用されます。
かつては、統計教育では手計算・電卓を使用し、実務での統計処理では自社製ソフトウェアを使用することが主流でしたが、現在では、統計教育・実務での統計処理ともに汎用の統計解析ソフトウェアを使用するケースがほとんどです(もちろん、統計手法の数理的な原理の理解を目的とした場合は、今でも手計算やExcel上で計算を行うことは非常に有用です)。
ここでは特に、SQCの分野で使用されている統計解析ソフトウェアを紹介します。
以下の記述は、筆者の独断と偏見に基づきますので、事実誤認や見解の相違等があるかと思いますが、ご容赦いただければ幸いです。
一般的に、統計解析ソフトウェアには、大きく分けて、Excel上で動くExcelアドインソフトと単体で動く専用ソフトウェアの2種類があり、それぞれ次のような特徴があります。
(1)Excelアドインソフト
Excel上で動作し、あたかもExcelの機能の一部であるかのように使用できる統計解析
ソフトウェアが、Excelアドインの統計解析ソフトウェアです。
分析対象データや出力結果の編集・加工に関して、使い慣れたExcelの操作性や柔軟
さをそのまま利用できるのがExcelアドインソフトの利点です。ただし、統計解析の
機能に関して、分析可能なデータ量やグラフ種類、処理速度などの点でExcel本体の
機能が制約となってしまう面があります。
このため、本格的に統計解析を行う場合は、次で紹介する専用ソフトウェアを使用
することが多いと思います。
代表的な商用のExcelアドイン統計解析ソフトとして、「エクセル統計」(株式会社
社会情報サービス)、「EXCEL統計解析シリーズ」(株式会社エスミ)があります。
(2)専用ソフトウェア
ここでの「専用ソフトウェア」とは、統計解析専用に開発されたソフトウェアで、
単独で動くものを指します。
統計解析専用に開発されているため、様々な統計手法に対し、統一的な操作性で
比較的簡単に適切な出力を得ることができます。例えば、データ入力画面で各列に
解析処理で有用な属性(役割)を設定できたり、各統計手法においてその統計手法
固有の形式のグラフが出力されたり、出力結果が見易い形式で提示されたりします。
ただし、操作性や出力結果の見せ方等に関して、それぞれのソフトウェアに特有の
特徴(クセ)がありますので、どのソフトウェアを使用するにせよ慣れは必要とな
ります。
SQCで使用される代表的な統計解析専用ソフトウェアとして、「R」、「JMP」、
「IBM SPSS Statistics」、「MINITAB」、「JUSE-StatWorks」(順不同)があり
ます。これらの代表的な統計解析専用ソフトウェアを簡単に紹介します。
(ⅰ)R(アール)
Rは、フリーの(無償で使用できる)統計解析ソフトウェアです
(「https://cran.r-project.org/」からダウンロードすることができます)。
2016/10/1時点での最新バージョンは3.3.1となります(ただし、バージョン間の
互換性の問題があり、あえて古いバージョンのRを使用することもあります)。
Rは、それ自体で豊富な統計処理機能やグラフ描画機能を備えていますが、特に
特徴的なのは、統計学者を始めとした世界中の人々が自作の分析機能を”パッケージ”
として無償で配布している点です。ユーザーは、必要なパッケージをWeb上から取り
込むことにより、最新の分析手法を含む様々な分析手法をR上で実行できます。
ただし、マウスのクリックで分析を進めることができる通常の商用統計解析ソフト
ウェアと異なり、Rは原則的にはコマンドをキーボードから入力して分析を進める形
となります。また、Rはフリーのソフトウェアであるため、パッケージのバージョン
間の互換性の問題や正式なサポート窓口がないという問題があります。
これらのことから、Rは、統計に詳しいユーザーが個人的に使用する目的では大変
有用ですが、部門や全社のSQCに関する標準ソフトとして採用するのは難しいと感じ
ます。
(ⅱ)JMP(ジャンプ)
JMPは、開発元がSAS Institute Inc.(米国)であり、日本ではSAS Institute
Japan株式会社 JMPジャパン事業部が取り扱っている、商用の統計解析ソフト
ウェアです。
最新バージョンは2016年に発売のJMP 13となります。
JMPは、様々な種類の計画に対応した実験計画表出力機能や同じメニューで様々なモ
デルを当てはめることができるモデルの当てはめ機能が優れており、データのグラフ
化にも工夫が見られます。
JMPの開発元であるSAS Institute Inc.は、医薬分野の標準ソフトウェアである統計
解析ソフトウェアSASの開発元でもあり、JMPとSASとはデータの互換性があること
から、JMPは特に医薬分野で強みがあります。
(ⅲ)IBM SPSS Statistics
(アイビーエム エスピーエスエス スタティスティックス)
IBM SPSS Statisticsは、開発元がIBM Corporation(米国)であり、日本では日本
アイ・ビー・エム株式会社が取り扱っている、商用の統計解析ソフトウェアです。
最新バージョンは2016年に発売のIBM SPSS Statistics 24となります。
ベースシステムであるIBM SPSS Statistics Baseに加え、数多くのアドオンモジュ
ールや関連製品が用意されています。関連製品の中では特に、共分散構造分析ソフ
トウェアAMOS(エーモス)が有名です。
日本では、市場調査や官能評価などの分野で強みがあります。また、大学などの
教育機関でよく使用されていることや関連書籍が多いことも特徴です。
(ⅳ)MINITAB(ミニタブ)
MINITABは、開発元がMINITAB Inc.(米国)であり、日本では株式会社構造計画
研究所が取り扱っている、商用の統計解析ソフトウェアです。最新バージョンは
2014年に発売のMINITAB 17となります。
MINITABは、欧米の教育機関や製造業で広く使用されており、例えば、
ISO/TS16949(旧QS-9000)のリファレンスマニュアルでもMINITABの出力が
採用されています。
各統計手法の機能構成は比較的シンプルですが、SQCで使用される統計手法が幅広
く搭載されています。また、ヘルプなどのドキュメント類や教育コンテンツが充実
しているのも特徴です。
日本では、シックスシグマのツールとして名が知られるようになりました。
(ⅴ)JUSE-StatWorks(ジュース スタットワークス)
JUSE-StatWorksは、弊社(株式会社日本科学技術研修所)が開発・販売を行って
いる、商用の統計解析ソフトウェアです。最新バージョンは2011年に発売のJUSE-
StatWorks/V5となります。
JUSE-StatWorksは、数少ない日本産の商用統計解析ソフトウェアとなります。
源流となるJUSE-QCASを1986年に発売して以来、一般財団法人日本科学技術連盟
のSQCセミナーと共に発展してきました。
このため、特に、機能構成や用語に関して日本のSQC教育と高い親和性があり、日
本のSQC教育で重要とされている層別や手動選択によるモデル選択等の機能に特徴
があります。
JUSE-StatWorksは、日本の製造業の品質管理部門で広く使用されています。
ところで、データ解析や統計手法に興味がある方や、業務でデータ解析に携わる
機会が多い方などは、「ビッグデータ」や「機械学習」、「IoT」(Internet of
Things:モノのインターネット)、「AI」(Artificial Intelligence:人工知能)と
いう言葉を耳にしたことがあると思います。特にSQCの分野では、「IoT」が現時点
で最も注目されているキーワードとなります。
SQC分野でのIoTとは、例えば、製造工程に多数のセンサーを設置し、それらから得
られる大量のデータを用いて工程のモニタリングや異常検知などを行うことを指しま
す。この際、数値データだけではなく、画像も分析対象のデータとなり得ます。
IoTで得られるデータは、いわゆる“ビッグデータ”となりますが、一般的にビッグデ
ータの分析においては、従来からSQCで使用されている統計手法をそのまま適用する
のには注意が必要であり、状況によっては従来の統計手法が適用できない場合もあり
ます(ビッグデータには、項目数が多い(列数が多い)、サンプル数が多い(行数が
多い)、両方とも多い、場合があり、それぞれの場合で状況は変わります)。
また、ビッグデータの分析における統計解析ソフトウェアの使用に関しては、処理可
能なデータ量や処理速度にも注意が必要となります。
ビッグデータの分析の需要の高まりを受け、日本科学技術連盟でも昨年度(2015年度)
から、ビッグデータに対して有用な分析手法を教育するセミナー「モノづくりにおける
問題解決のためのデータサイエンス入門コース」が開始されました。そこでは、ナイー
ブベイズ法、サポートベクターマシン(SVM)、罰則付き回帰分析(正則化回帰分
析)、罰則付きグラフィカルモデリングなどが教えられています。
これらのビッグデータのための分析手法は、Rでは該当するパッケージを取り込むこと
により実行できるものの、通常、一般的な商用統計解析ソフトウェアには搭載されて
おりません。このため、これらの分析手法を商用統計解析ソフトウェアで実行するに
は、それらの機能を搭載した製品を別途購入する必要があります。例えば、JMPには
「JMPPro」という製品が用意され、IBM SPSSには「IBM SPSS Modeler」という製
品が用意されています。
弊社では、現時点ではビッグデータ向けの製品はご用意しておりません。しかし、既に
開発に着手しており、近い将来にはビッグデータを分析するためのソフトウェアをご提
供できる予定です。
また、ビッグデータについては、データの管理や分析を、クラウド上で提供されたサー
ビスを使用して行うという選択肢もあります。このようなクラウド上のサービスとして
は、Amazonが提供する「アマゾン ウェブ サービス」(AWS)、Microsoftが提供する
「Microsoft Azure」(マイクロソフト・アジュール)が代表的なサービスとなります。
これらのクラウド上のサービスには、初期導入費用が低く手軽に始められる、必要に応
じて適宜使用容量などを増やせる、常に最新の機能が利用できる、という利点がありま
す。
一方で、従量課金制であるため運用コストがかかる点や、データを社外のサーバー上で
処理することになる点などに注意が必要です。
本稿ではSQCに関わる統計解析ソフトウェアの紹介を行いました。品質管理に携わる方々
が目的に合った統計解析ソフトウェアを選定・活用し、より良い成果を達成されることを
期待します。
私も統計解析ソフトウェアの開発・普及に携わる一人として、日本の品質管理のますます
の発展に僅かながらでも貢献できるよう努めてまいりたいと思います。

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犬伏 秀生 氏
(いぬぶし ひでお)
1997年 名古屋大学大学院
多元数理科学研究科修士課程 修了
1997年 ㈱日本科学技術研修所入社
統計解析ソフトウェアの開発に従事
慶応大学大学院健康マネジメント
研究科非常勤講師(2015年~)

