第2年度 リスクアセスメント実践研究会
熱気あふれる会場風景
2019年3月15日(金)日本科学技術連盟・東高円寺ビルにおいて、「2018年度(第1年度)リスクアセスメント実践研究会」の成果発表会が開催されました。
この成果発表会は、2018年5月25日から計9回の研究会を通じて研究を行った成果を、研究会参加者だけでなく広く一般の方にも情報発信し、製品安全リスクアセスメントの最新手法・最新動向を共有するものです。
本年の研究参加者は、研究のための研究ではなく、研究成果を実践に生かすことを主眼に研究活動を推進し、今回の成果発表に臨んでいます。
1. リスクアセスメント実践研究会とは
リスクアセスメント実践研究会は、昨年までのR-Map実践研究会からさらに研究の幅を広げてリニューアルして発足したものです。多様な業種の多様な部門の担当者が一堂に会し、各研究グループで設定する研究テーマにしたがって、各自の研究目標を設定し、期間内に研究を行い発表するものです。この研究会では、異業種交流によってざっくばらんに情報交換ができることや、人脈形成ができることが特徴です。研究会は3つの切り口の研究対象があり、各自の課題に対して研究を行っています。
研究対象Ⅰ:「製品等の開発段階におけるリスクアセスメント」
研究対象Ⅱ:「ヒューマンエラーの合理的リスクアセスメント手法」
研究対象Ⅲ:「流通視点で見る消費者安全対策」
2. 2018年度(第1年度)リスクアセスメント実践研究会 成果発表会のスケジュール
時間 | 内容 |
---|---|
9:50-10:00 |
【来賓挨拶】経済産業省 産業保安グループ |
10:00-10:30 |
【特別講義】「PSPTA、HHA手法について」 |
10:30-12:00 |
第1研究グループ |
12:00-13:00 |
昼食・休憩 |
13:00-14:00 |
第2研究グループ |
14:00~15:00 | 第3研究グループ 「製品等の開発段階におけるリスクアセスメント」 「ヒューマンエラーの合理性リスクアセスメント手法」 |
15:00-15:15 |
休憩 |
15:15-16:00 |
第4研究グループ |
16:00-16:45 | 第5研究グループ 「流通視点で見る消費者安全対策」 |
16:45-16:55 |
2019年度 研究会活動の紹介 |
16:55-17:00 |
日科技連からの挨拶 |
17:00-17:10 |
休憩・会場移動 |
17:10-18:00 |
情報交流会 |
3. 来賓ご挨拶
経済産業省 原 信幸 氏
経済産業省 産業保安グループ製品安全課長 原 伸幸 様より、ご挨拶をいただきました。
ご挨拶の概要は、次の通りです。
重大製品事故はここ10年減少しているが、取り巻く状況の変化に対応して以下の4つを安全に関連した重要な課題と認識している。
(1)海外への生産委託の増加(サイレントチェンジへの対応など)
(2)製品のIoT化への対応(サイバー攻撃の脅威など)
(3)高齢者の製品事故の抑制(65歳以上の人口は2030年のピークまで上昇と予想)
(4)インターネット通販の購入品の事故増加(比率は10年前の3倍)
経済産業省としては、OECD共同啓発キャンペーン、PSアワードなどの安全性強化の推進、投資家への働きかけのアプローチ、ツイッターでの消費者への情報提供などの様々な取り組みを行っていると述べられました。
4. 特別講義
テーマ「PSPTA、HHA手法について」
本研究会統括主査 伊藤 淳氏
本実践研究会 統括主査 伊藤 淳 氏 による特別講義が行われました。
講義のポイントは、次の通りです。
本日の発表をより良く理解いただくために、リスクアセスメントの手法や考え方の概要について下記の点を切り口に解説されました。
・PSPTAは、主にハードに起因する危害シナリオに対して、HHAは、主に取り扱いに起因する危害シナリオに対して、使い分けると良い。
・非常識と思われる使用に対しても、全てリスクアセスメントすること。
・リスクアセスメントの手法は、実践研究会によって進化し続けており、PSPTAやHHAもその中で生まれ発展してきた。
5. 各研究グループの研究成果発表
続いて、第1研究グループから第5研究グループの順に発表が行われました。
発表の要旨は、次の通りです。
第1研究グループの発表
「製品等の開発段階におけるリスクアセスメント」
●テーマ(I):生活支援ロボットの“ゼロレベル”の推定」
近年様々なロボットが製品化されつつある中、安全性の指標としてR-Mapのゼロレベルを明確にすることを目的に研究を行った。
アンケート調査により、使用者にとってどの程度の危害と頻度であれば許容されるかを調査し、心理的側面からのゼロレベルの推定を試みた。危害の程度Ⅱに相当する事故シナリオを提示して、発生件数について許容できる範囲を質問した結果、10年に1回が回答の最頻値であった。この結果と稼働台数より、生活支援ロボットのゼロレベルを10-7と推定することができた。ただし、比較として実施した既存製品のアンケートからの値は、R-Mapで運用されている値よりも一桁厳しい結果であった。
新分野の製品のゼロレベルの推定については、さらなる検討の余地がある。
●テーマ(II):新カテゴリー製品の開発段階における危害シナリオの抽出
知見や経験が無い新たなカテゴリーの製品を開発する場合の安全性確保のために、ハザードの特定をどの様にすれば漏れなくリスクを抽出できるか、という観点で研究を行った。
昨年度の研究成果としての“機能ブロック図”手法を標準化するために、ブラッシュアップの検討を実施。機能ブロック図作成手順を構想し、その中で、各ブロック間のエネルギーの流れを矢印線で見える化を行った。そして、矢印でつながったブロックをハザードマトリックスの縦軸に記載することで、危害シナリオ抽出の網羅性を向上させることができた。
この手法を、スキーアシストロボットという全く新たな製品開発を想定して適用した結果、製品構想段階において危害シナリオを網羅的に抽出することができた。
今後はSTAMP/STPAの考え方を導入して、さらなる検討を行う。
第2研究グループの発表
「製品等の開発段階におけるリスクアセスメント」
「ヒューマンエラーの合理的リスクアセスメント手法」
●テーマ(Ⅰ):延焼防止遮蔽板における制約事項「R-Mapによる乳幼児製品の事故事例研究」
金属製のエンクロージャは開口部によりセーフガードとしての効果を減じてしまう可能性があり、制約事項を明確にすることを目的に研究を行った。
オフィス用電気機器などに搭載されているDCモータードライバー素子などの場合、IEC62368-1で想定している炎の大きさを超えることより、PSPTを用いて短絡故障や端子台ゆるみなどの危害シナリオのリスク評価を実施した。その結果、DCモータードライバー素子などを実装し、故障時に内部樹脂などが噴出して広範囲に炎を噴出する可能性のあるプリント基板は、開口部から見えない位置に配置するなどの、開口部の制限を明確にすることができた。
今後は、外部への配線経路や樹脂材料を考慮した防火エンクロージャの効果的な配置の検討を行う。
●テーマ(II):ヒューマンエラー(誤使用、製造工程)シナリオの抽出方法
人のミス(エラー)に対する安全性の確保について、専門家が使用する製品のユースエラーと、製造工程での作業エラーの2つに着目して研究を行った。
FMEAフォーマットの特徴を活用し、動作・作業を洗い出すことで、漏れなくユースエラーや作業エラーの抽出ができる見通しを得た。また、作業エラーに関しては、jeremy williams の頻度指標と素材/部品の影響度指標を導入することで、リスクをより明確に定量化することができ、最終製品の安全性に影響を与える重大な作業エラーを特定する見通しを得た。
今後は、動作・作業をさらに細分化し検討を深めるとともに、エラーを“意図的な行為”にまで広げ、品質コンプライアンスの観点も含めた検討を行う。
第3研究グループの発表
「製品等の開発段階におけるリスクアセスメント」
「ヒューマンエラーの合理的リスクアセスメント手法」
●テーマ:開発段階のリスクアセスメント手法の研究(ヒューマンエラー/セキュリティ)」
ヒューマンエラーについての危害シナリオはリスクアセスメントでALARP領域になる場合が多い。この点に着目し、HHAでのALARPの考え方を明確にすることを目的に研究を行った。
製品の保護方策だけではC領域にならないヒューマンエラーのとして、6つの危害シナリオの事例に関して、HHAを用いてリスクアセスメントを実施。4つの視点(①State of the art ②他社との比較 ③ユーザー・販売店の意見 ④サービス・営業の意見)でALARP判定を行うことで、リスクが社会に許容されているかを評価することができた。今回の結果より、HHAによって、非常識な使用かどうかの判定を含めたリスクアセスメントを行うことができると判断する。
近年のIoT機器の普及によりセキュリティ関連のリスクが顕在化している。この点を鑑み、セキュリティリスクの見える化の研究を開始した。
取り掛かりとして、セキュリティ関係の5つの危害シナリオの事例に関して、安全性リスクアセスメントの手法であるPSPTA、HHAを用いた結果、今回の事例ではリスクを評価することができた。
今後、事例検討を重ね、IoTのリスクアセスメント手法の確立を目指す。
第4研究グループの発表
「ヒューマンエラーの合理的リスクアセスメント手法」
●テーマ:HHAによる誤使用リスクに対する表示妥当性検証」
製品の取扱説明書やラベル等の表示は肥大化傾向にあるが、過剰な表示は逆に本質的な危険に対する意識を弱める懸念があり、『落としどころ』が重要との認識に基づき研究を進めた。
nite事故情報DBの分析では、対象とする事例の67.5%に相当する310件が、表示の追加や変更で対応している。このことより、表示されていても内容が適切でなく安全な使用が認知されずに事故に至っている可能性が高いと予想され、より適切な表示によるリスク低減が望まれる。
今回、残留リスクに対する 危険・警告・注意 表示の自動判定をHHA手法に盛込み、実際の流通品における表示との比較確認を行った。その結果、“シューズ”、“洗濯機”では判定と流通品の表示は一致したが、“電子レンジ加熱式の湯たんぽ“では一致しなかった。今後、事例分析を重ね、表示の妥当性の評価手法の確立を目指す。
第5研究グループの発表
「流通視点で見る消費者安全対策」
●テーマ:流通事業者におけるHHAによるリスクアセスメントの導入」
流通事業者のメンバーも参加して、昨年度に引き続き組み立て家具を題材にして、“組立”という共通機能のリスクアセスメント(機能RA)の研究を実施した。
今年度は、実際の商品を組み立てながらHHA手法を実践した。その結果、HHAは流通事業者においても導入しやすい手法であることが確認できた。製造事業者と消費者の橋渡しである流通事業者において、感覚的ではなく定量的にリスクを把握できることは、リスクコミュニケーション全体としてとても重要である。
また、アセスメント結果からポイントを抽出し、実際に流通事業者で使用している書類を参考にして、分かりやすい表現の「見える化シート」を作成。これによって、“組立”に関してバイヤーが容易にリスクに気づくことができ、流通事業者にとって有用な活用方法と思われる。
今後は、他の共通機能に検討を広げ機能RAの実用性の検証を行う。
各グループの発表風景
6. 2019年度 研究会活動の紹介
伊藤統括主査より、次年度の研究会の講師の紹介と、リスクアセスメント実践研究会としてリニューアルして2年目に向けて、伊藤統括主査より、次年度の研究会の講師の紹介と、リスクアセスメント実践研究会としてリニューアルして2年目に向けて、引き続き幅広く活動を進める旨の説明と、次年度への参加の呼びかけがあった。
7.最後に
リスクアセスメント実践研究会として第1年度の成果発表会でしたが、昨年までのR-Map実践研究からより幅を広げて、5つの研究グループから様々な切り口で、リスクアセスメントの課題に対する研究の成果が発表されました。実務に直結したテーマのみならず、ロボットやIoTなどの今後に向けた新たな手法確立を模索するテーマなど、興味深い内容になっていたのではないかと思います。
また、この実践研究会は、様々な業種の各社の製品安全に関わる方々の貴重な情報交流の場としても活用していただいています。
次年度研究会も、2019年5月24日よりスタートします。現在研究員を募集しておりますので、研究会一同皆様のご参加お待ちしております。
▶ 本研究会の詳細内容は、こちらから
(文責:主任指導講師 服部 毅)
過去のレポート(PDF)
第13回 R-Map実践研究会成果発表会
第12回 R-Map実践研究会成果発表会
第11回 R-Map実践研究会成果発表会
第10回 R-Map実践研究会成果発表会
第9回 R-Map実践研究会成果発表会
第8回 R-Map実践研究会成果発表会
第7回 R-Map実践研究会成果発表会