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TQM(品質・改善・とマネジメント)
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「未来の顧客価値」を起点にした新製品・サービス開発(3)<2015年07月30日>

前回は、未来を起点としたバックキャスティングの思考アプローチに基づく「理想追求型QCストーリー」と呼ぶ新たな手法を、実際の製品開発事例を交えて紹介しました。私はこれを問題解決のための新たな手法としても位置付けています。今回は、従来の「問題解決」との比較を通して、理想追求型QCストーリーの新規性を考えてみます。

「現状」を起点にする、従来の問題解決の枠組み


「問題」とは、「現状」と「目標(あるべき姿)」のギャップとして定義されます。そして、両者のギャップを生む原因を特定し、対策を講じることを問題解決といいます。

 
図1 問題解決の基本的枠組み

まず「現状」とは言葉のとおり、現在の状況です。問題解決に取り組む必要のある状況ですから、なんらかの不具合や目標未達成などが生じていると考えられます。

そして「目標」とは、通常は所与のもの、前提として既にあるものとして存在しています。例えば、生産部門における不良率、営業部門における顧客訪問件数、開発部門における年間開発件数、コールセンターにおける受電率など、どの部門にも達成すべき目標というものが多かれ少なかれ存在します。

これらの目標を達成できていない「現状」に着眼するところから始まるのが、従来の問題解決型のQCストーリーです。実際、問題解決型QCストーリーの教科書には「今の仕事のダメさ加減の定量的把握からスタートする」と書かれています。

つまり、一般的な問題解決においては、目標が前提条件として初めから存在しているため、あとは現状を把握できれば、必然的に両者のギャップがどのように生じているか(問題は何か)を理解することができます。図1で言い換えれば、現状と目標、左右の距離(ギャップ=問題)をはかりたいときに、もし右側の目標の位置が初めから固定されているなら、後は左側の現状の位置さえ分かれば、両者の間の距離を測ることができる、すなわち何が問題なのかが分かる、ということです。だからこそ、問題解決型のQCストーリーでは、現状を起点に始まっているのです。

「目標」を起点にする取り組み
これに対して理想追求型QCストーリーは「はじめに既存目標ありき」という立場ではなく、「真に達成すべき目標は何か」という目標起点の立場を取ります。本当に達成すべき目標が既存目標群には存在しない場合は、新たな目標を創造することになります。もちろん、検討の結果「既存目標の達成こそが重要だ」ということになれば、それはそれで良いのです。いずれにせよ、はじめから既存目標ありきではありません。起点は「現状」ではなく、「目標」なのです。


図2 「一般的な問題解決」と「理想追求型QCストーリー」の違い

1980年代から1990年代初頭にかけて我が国製造業の国際競争力が世界最高水準に達した原動力として、持続的改善の取り組みがありました。そのなかで、「現状を正確に把握する力」(現状把握力)と「原因を究明する力」(原因究明力)の向上に、QC七つ道具をはじめとする各種方法論の果たした役割が極めて大きかったことは周知の事実です。ただし、「現状把握力」と「原因究明力」という2つの力は、達成すべき目標が明確に示されてこそ威力を発揮することに注意する必要があります。

明日の事業を切り拓くという観点から見た時、達成すべき目標は所与ではありません。「事業が創造すべき価値は何か」という思考は、問題解決の枠組みに即して換言すると「達成すべき目標は何か」を考えることであり、それはすなわち、新たな目標の創造といえます。

目標をどのように設定するか、が“カギ”になる
かつての時代、目標設定の拠り所は、「競合」あるいは「顧客」にありました。ベンチマーキングやベストプラクティスなど他社の分析を通じて、あるいは、VOC(Voice of Customer: 顧客の声)に耳を傾けることを通じて、「自社は何をすべきか」という目標が設定されました。

しかし、今日の競争環境において、競合分析と顧客分析はその取り扱いを誤ると価格競争が一層深刻化する恐れがあります。過度なベンチマーキング、ベストプラクティスは、やればやるほど検討対象に対して同質化していきます。VOCの取り扱いについても同様です。顧客に答えを求め、表面化している顧客の声を真に受けて製品化しようとすれば、競合他社も同様のアプローチをとっている場合が多いだけに、蓋を開けて見たら市場に類似商品が溢れる事態を招きます。またしても同質化です。同質化、つまり、製品・サービスのコモディティ化の先にあるものは、価格競争です。

今までにない新たな価値の創造は、現状把握力と原因究明力だけで成し得るものではありません。特に、目標設定の拠り所となる物が揺らいでおり、従来のやり方で目標設定をした結果の行きつく先がコモディティ化になりかねない状況では、現状把握力と原因究明力の2つの力だけで競争優位を確立できる時代は終焉を迎えているといっても過言ではないのです。

昨今の経営学では、これまでのキャッチアップ型経営から、フロントランナー型経営に転換を図ることの必要性が説かれています。ベンチマーキングやベストプラクティスに見られる「自分より前を走っているランナーがいる」という暗黙的な前提を見直すべき時代に入ったといえるでしょう。今日、我が国企業は追いかける存在ではなく、台頭する新興国に追いかけられる存在なのです。

これからの時代に必要な「第3の力」
今回の連載で最も強調したいことは、現状把握力と原因究明力に加え、新規目標を継続的に生み出す力の重要性です。


図3 目標創造力:これからの時代に必要な「第3の力」

目標創造力の向上は、問題解決のさらなる高度化をもたらし、市場の先頭を走り続けるフロントランナーとしてのポジションを一層強化することに貢献することが大いに期待されます。現状把握力、原因究明力、そして、目標創造力が三位一体になった時、最強の問題解決が本領を発揮すると確信しています。

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Profile

加藤 雄一郎 氏
(名古屋工業大学大学院 工学研究科 産業戦略工学専攻 准教授)

製造業、広告会社を経て、2003年に名古屋工業大学が国立大学初のMOT独立専攻を開設したことを機に転身。教鞭を執ると共に、「機会発見プロフェッショナルとして わが国の製造業に貢献する」をミッションとして研究室内に“Brand Design Lab”を立ち上げ、企業との共同研究、指導・支援にあたる。専門分野であるブランド戦略、マーケティング戦略などの他、近年はそれらとTQMの融合による、企業におけるブランド価値創造、経営システムの最適化手法の開発を進めている。

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