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未然防止に役立つ構造化知識ベースの運用(2)<2015年08月20日>

■不具合情報から知識を抽出して構造化知識ベースをつくる


前回、不具合情報をそのまま収集・蓄積するだけでは、具体的な設計ニーズと不具合情報の内容・形式のミスマッチから、未然防止活動にはうまく活用できないことについて解説しました。では、不具合情報を知識としてどう整理すれば、設計ニーズに応じて引き出せるようになるのでしょうか。

実は、不具合を防ぐために必要な知識とはシンプルなものです。すなわち、「どんな設計アイテムにおいてどんな要因で何が起きるか?」「そのための予防処置として何をすべきか?」という問いかけに応えてくれる知識です。
 

このような知識を不具合情報から抽出し、設計ニーズに対応した検索で探し出して再利用できるようにするには、「知識の構造化」と呼ばれるアプローチが効果的です。知識の構造化では、不具合発生のメカニズムと実施すべき対策(設計や評価に役立つポイントや基準など)を共通の知識フレームワークに基づいて整理します。知識フレームワークとは、知識を再利用するアイテム、望ましくない事象、事象発生条件、設計要因、実施すべき対策(推奨事項、設計・評価基準など)、関連文書(知識の出所、詳細資料)などから構成されます。このフレームワークに基づいて作成される知識は、不具合に関する構造化知識といいます。
 

設計開発において不具合に関する構造化知識を整理し、活用する流れは、図2 のようになります。まず、設計で作成するリスク解析情報や、試験で得られる報告書、市場不具合事例などさまざまな不具合情報を収集します。次にそれらの不具合情報から知識の構造化を行い、再利用性を高めた知識(構造化知識)をつくります。この構造化知識に、さまざまな関連文書を紐付けて登録したものが、不具合に関する構造化知識ベースです。

これは不具合に関する一元的な知識情報基盤となります。技術者は未然防止活動のさまざまな目的に応じて、構造化知識ベースを活用します。そして役に立つ知識をどんどん吸収し、不具合の予測や未然防止の能力を高めていくのです。
 

図2 設計開発における不具合に関する構造化知識の整理と活用


■構造化知識で知識の再利用性を高める


構造化知識ベースを構築する際に重要なことは、未然防止のために再利用性を高めた知識をしっかり作成することができるかどうかです。そこで、構造化知識に求められる「知識の再利用性」について具体的に説明します。

知識の再利用性を高めるためには、まず不具合発生メカニズム(原因→結果の連鎖)を、設計アイテムに発生する望ましくない事象に着目して分解し、同様のアイテムを次回設計する際に再利用できるように知識をつくります(知識の分節化)。

その結果、図3に示すように、製品の構成アイテムにおける不具合発生メカニズムの知識(例えば、××部ギヤの疲労破損の知識、××通信IC誤動作の知識)が製品設計向けに整理されます。また内容によっては、製造工程における不良の発生メカニズムの知識(例えば、××部カバーボルト固定力不足の知識、××基板フロー半田不良の知識)が工程設計向けに整理されます。分節化された知識は、知識分節と呼ばれます。知識分節は、不具合発生メカニズムから整理すべき設計アイテムの教訓の数によって、1つだけ作成されることもあれば、2つ3つと複数作成されることもあります。


図3 再利用性を高めた知識(構造化知識)の整理
 

各知識分節においては、望ましくない事象の要因間の関係(発生条件や設計要因など)や各事象間のつながり、さらに各事象と実施すべき対策・関連文書の関係などを整理します(知識の関係整理)。これによって設計実務において技術者が活用しやすい知識になります。また不具合に関する一元的な知識情報基盤の構築が可能になります。

さらに各知識分節の内容を可能な範囲で一般化します(知識の一般化)。××部ギヤの疲労破損のメカニズムも、内容によっては、××部ギヤという特定部位のギヤに限らず、樹脂ギヤ一般の設計知識として再利用できるかもしれません。特に、自社製品において、樹脂ギヤが××部以外でも使用されているのではあれば、知識を一般化して広く再利用すべきです。因果連鎖全体を一般化することは難しいですが、知識を分節化し、関係整理された知識分節に注目すれば、具体的な設計アイテムに焦点が絞られていますので、知識の一般化の可否検討を行うことができます。

このようにして、知識の分節性、関係性、一般性を確保することによって、知識の再利用性を高めた構造化知識をつくることができます。


■不具合に関する知識を構造化する手法「SSM」


以上で述べた考え方に基づき、再利用性を高めた知識を不具合情報から整理し、構造化知識ベースを構築するための手法として、「SSM(ストレス・ストレングスモデル)」があります。SSMは、製品や製造工程に起こりうる不具合発生メカニズム(因果連鎖)の知識を不具合予測と未然防止に活用できるように構造的に表現するためのモデルです。SSMを活用した未然防止の取り組みは、自動車、家電、産業機械、半導体、医療機器などの様々な製造業分野において幅広く実践されています。そのため、SSM は広義には、知識を表現するモデル(狭義のSSM)に基づく構造化知識ベースを構築・活用する取り組みを指すこともあります.
 

SSMでは、不具合情報から因果連鎖を分節化し、1つの知識分節を定義属性、不具合モード、ストレス要因、ストレングス要因、制御属性要因という5つの観点を用いて表現します(図4)。


 
図4 SSMの知識分節
 

不具合モードとは、製造以降、輸送、使用、保守などの各段階において設計アイテムに発生する望ましくない現象、状態、特性変化のことです。

例えば、配管の疲労破損、滑り軸受の摩耗過大、軸段付き部の応力集中大、電源回路の異常発振、センサが誤検知する、ゴムの極低温硬化大、信号線へのノイズ重畳、基板コネクタの逆挿しなどです。
 

定義属性とは、不具合モードの発生メカニズムの知識を適用する設計アイテムの範囲を定義する属性です。

製品設計向けの知識では、製品の構成アイテムを定義属性として利用することができます。しかし知識を一般化する場合は、具体的な構成アイテムではなく、一般的な技術要素、部位、材質、工法など(例えば、オイルシール、玉軸受、アルミ電解コンデンサ、光電センサ、IGBT駆動回路、モータPWM制御、ボルト締結部、Oリングシール部、ポリアミド、ニトリルゴム、板金スポット溶接、軸圧入など)の表現が用いられます。工程設計向けの知識であれば、リフローはんだ付け工程、ボルト締結工程などの工程表現の他、作業、設備、治工具などの表現も利用されます。

定義属性と不具合モードで、「どういうアイテムで」「何が起きる?」を整理することになります。以下では、「どんな要因で?」という点、すなわち不具合モードの発生要因について説明します。
 

ストレス要因は、定義属性のアイテムに対して、製造以降、輸送、使用、保守などの各段階で与えられる使用・環境・作業上の条件、異常な入力や状態、設計で制御しきれない特性ばらつきなどを意味します。

例えば、ユーザー運転負荷が高い、機器の長時間連続使用、周辺機器からのサージ入力が大きい、設置箇所の環境温度が高い、ユーザーの乱暴な取り扱い、輸送時の振動入力、隣接した部品の摩耗が進行する、結露した水が氷結する、機器の設置相手(他社製)の寸法ばらつきなどです。
 

ストレングス要因は、不具合モードの発生を防止するために、定義属性のアイテムにおいて設計上確保しておくべき耐性の低さや狙いの不足です。

例えば、シャフトの疲労強度が小さい、すべり軸受の耐摩耗性が小さい、ボス根元部の応力集中の抑制が不足している、筐体の防音性が低い、などがあります。
市場クレームなど実際に発生した不具合から知識を教訓として残す場合は、基本的な設計はできていたにも関わらず、ある特定の性質や条件のストレスに対して耐性が不足していて不具合モードを発生させてしまったということを教訓として明確に伝えたいことがしばしばあります。そのようなときは、低温環境による強度低下を踏まえたシャフトの疲労強度確保不足、輸送時の振動入力に対するボス根元部の応力集中の抑制不足などのニュアンスで記述します。
 

制御属性要因は、ストレングス要因をつくり込む具体的な設設パラメーターや設計指示内容のまずさです。

例えば、板バネの肉厚が小さい、ケースボス部コーナR小、××カバーにABS樹脂を使用、配線パターン長大、電解コンデンサ容量小、制御ロジックに××を入れない、図面に××指示せず、といった表現となります。
 

上記3つの要因のうち、ストレス要因は、製造以降で実際に発生する条件や環境というニュアンスで記述します。一方、ストレングス要因と制御属性要因は、その実際の条件や環境に対して、なぜ不具合モードの発生を防げなかったのかという設計要因を記述することになります。いずれの要因も、必要に応じて具体的な数値の付記や、図面・図表・写真の添付を進めれば、知識利用者の理解度が高まります。

不具合モードと定義属性の記述は、知識の分節性を確保する上で重要です。また定義属性は、知識の一般性を左右する内容となります。更にストレス要因、ストレングス要因、制御属性要因は、要因間の関係を整理するため、知識の関係性を確保するための内容になります。この他にも、各知識分節において、実施すべき対策を記述し、関連文書を紐付けることによって、知識の再利用性を更に高められます。複雑な不具合発生メカニズム(因果の連鎖)に対しては、複数の知識分節をつなげて、因果連鎖全体をしっかりと表現することも知識の再利用性を高める上で重要になります。
 

このようにして構造化知識を整理しておくと、定義属性のキーワードを使うことで、設計アイテムに起こりうる事象の知識を収集できます。またストレス要因のキーワードを使うことで、使用条件や環境の変化点から起こりうる事象の知識を収集できます。その結果、設計チェックリストやFMEAなど設計ニーズに応じた取り組みを強力に支援することができます。不具合モードのキーワードを使うことで、FTAを効果的に支援することもできます。
 

以上ではSSMの基本的な内容についてお話ししましたが、SSMで整理した知識の具体例や、未然防止活動における知識の具体的な活用方法などのSSMの詳細については、構造化知識研究所ホームページや拙著「SSMによる構造化知識マネジメント -設計開発における不具合防止に役立つ知識の構築と活用-(日科技連出版社)」に詳しく紹介していますので、ぜひご覧頂ければと思います。


■構造化知識ベースを活用した未然防止の実践


さまざまな不具合情報から構造化知識ベースを構築し、設計チェックリストやFMEA、FTA、DRなどで活用することで、効果的な未然防止システムを構築できます。このようなシステムでは未然防止に活用できる社内共有知識ベースが可視化、一元管理されているため、技術者は社内に蓄えられた数多くの知識のうち、自身の設計で活用すべき範囲を明確に把握することができます。

その結果、自身が取り組む設計開発プロジェクトにおいて、システムを利用して検討できる範囲はその知識を活用し、それ以外においては、自身の経験や社内で共有されていないノウハウを活用しながら、未然防止に漏れがないようにしっかり検討を進めることができるのです。

不具合情報を眠れる宝の山にせず、未然防止活動に有効に活用し、技術者の不具合に対する予測力・分析力を高めるために、ぜひ構造化知識ベースを構築してみてください。
 

日科技連主催の「知識構造化シンポジウム」では、構造化知識ベースを活用した未然防止、再発防止を進める企業による事例講演や討論を行っています。設計開発現場のさまざまな課題、構造化知識の構築・活用の具体的な内容、未然防止活動の推進体制の工夫、活動がもたらす効果などが紹介されます。ご関心のある方はぜひ参加ください。

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Profile

田村 泰彦 氏
(株式会社構造化知識研究所 代表取締役)

東京大学工学部博士課程修了後、同大学助手を経て、2004年に(株)構造化知識研究所を設立し現職。博士(工学)。
未然防止、知識マネジメント、品質管理に関する研究・コンサルティング・システム開発などを行う。また書籍や論文のほか、セミナーやシンポジウムの運営を通じて、国内、海外におけるSSM/構造化知識マネジメントの普及・教育を進めている。SSM関連論文にて日経品質管理文献賞受賞(2002年)。

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