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TQM(品質・改善・とマネジメント)
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営業部門でTQMはどのように展開できるのか? アイホン 寺尾浩典常務に聞く(後編)<2017年10月11日>

(前編はコチラ)

――貴社の唱える「物件受注プロセス管理」とはどのようなシステムですか。

寺尾:これまでにも物件受注に役立てるためのシステムはありました。しかし、それはあくまでも見積りを作ったり、数字の集計や報告をしたりするためのものでした。要するに、どちらかといえば受け身だった。新たに立ち上げたシステムは受注するための情報を膨大な蓄積から拾い出し、それらを合理的に組み合わせて役立てる仕組みに変えました。
 
 すでに触れたように、当社は新築物件にインターホンを取り付けるという地道な戦略で営業基盤の拡大を図ってきました。昔は物件そのものの数が少なかったから、案件の内容や納入後の追跡を一件ずつつかむことができたのです。しかし、納入物件が増えてくるとデータが膨大になり、リニューアル案件も加速度的に増えてくる、情報の取りこぼしも出てきます。それは機会損失にもつながります。蓄えた貴重な情報を生かすことができなくなるからです。

――物件受注プロセス管理はリニューアル重視の体制にどのような効果をもたらしますか。
寺尾:新たな管理手法を使えば、例えば、納入後15年経った物件を自動的に抽出することができます。15年というのは集合住宅における更新時期です(戸建て住宅は10年)。法的なものではありませんが、インターホン工業会が客観的なデータから推奨しています。 先ほどお話したように、案件数が膨大だし、集合住宅は管理組合の理事の人達は一年で交代するので継続的な追跡をしにくい面があります。単なる納入時期ばかりでなく、さまざまな周辺情報の細かな検索や収集、分析などにも役立ちます。

■膨大な情報を探り出して役立てる

――物件受注プロセス管理を営業の柱にしようとしたきっかけは。
寺尾:営業活動の軸足をリニューアルに置こうと決めたのは第3次3カ年計画のころです。ただし、まだその時はお客様のクレームに個別に応じるという受け身の形でした。まだまだ新築が稼ぎ頭だったので、営業スタッフの誰もがリニューアル部門には尻込みをしました。実際、新築部門からリニューアル部門への異動が軋轢を生んだこともあります。
 
 より積極的に取り組まざるを得なくなったのは2008~09年ごろ。私が営業本部長になった時期です。当時は売り上げも底を這っていた。だから、もう落ちることはない。後は上に向かうだけ。後戻りはできません。幸い当社には初めてインターホンを世に出して以来の膨大な蓄積があります。それは納入実績という宝の山です。これを掘り起さない手はありません。

――どんなふうに宝の山を掘り起すのですか。
寺尾:当社の推計では、全国の集合住宅ストック数は分譲が約620万戸、賃貸が約2400万戸あります。工業会では設置から15年を更新時期とみていますから、分譲は約176万戸(当社推定)、賃貸は約470万戸(当社推定)が対象の住戸数と考えております。マンションのストック数は年々増えていますが、特に賃貸のマンションの更新機会が増加するのは自明です。
 
 この山をめがけて、例えば、当社が納めているマンションに狙いを定め、15年前に納入した物件データを取り出します。それを年代別、管理会社別などのソートをかけ、抽出された情報に基づいて交渉します。しかし、事はそう簡単ではなく管理会社や運営会社、メンテナンス会社などと粘り強く交渉した末に互いが納得できる着地点を見つけることになります。

■タブレット端末で現場から情報入力

――新たな管理手法は住宅着工戸数、病院着工件数ともに継続的な増加が見込めない中で心強いシステムのようにお見受けします。
寺尾:確かに、より地域に密着した営業活動を推進するための仕組みとして機能しています。本格化するリニューアル市場の売り上げ拡大のための頼もしい取り組みでもあります。最大のポイントは情報をアウトプットするだけでなく、タイムリーな情報が現場でインプットでき、また受注活動の対象物件における情報が現場でタイムリーに入手することが出来るようになります。
 
 最近増えているのは部品保管期間の関係から修理ができなくなった物件です。しかし、放っておくわけにはいかないので、早めに連絡してリニューアル提案を出させていただく。つまり、受注獲得につながる具体的なデータや情報を日々の営業活動の中でタイムリーに活用することができるのです。

――同じ手法は住宅市場ばかりでなく、ケア市場向けにも使えますね。
寺尾:もちろんです。推計では、病院、施設の総床数約330万床に対して、約65万床(当社推定)が対象と考えております。ケア市場向け機器の工業会推奨更新年数は設置後12年ですから、対象病院は時期が来ると自動的にリストアップされます。それを踏まえてリニューアルの営業をする。今回は予算が付かないと言われたら、コストパフォーマンスの良い新商品が出ているので次回の予算組みの時にご検討くださいという提案ができるわけです。
 
 住宅向けに話を戻せば、新築とリニューアルの情報を一元化しました。双方の情報をうまく噛み合わせれば、さらに効率的なビジネスが可能です。そこで、すべての営業スタッフにタブレット端末を持たせ、現場で情報入力できるようにしました。例えば、訪ねたマンションはリニューアルをしているかいないか、どのメーカーを使っているかといった情報が瞬時に共有できます。こういう手法は受注効率を上げるのに役立ちます。

■活動の照準は来たるべきデミング賞に
 
――一連の取り組みがどうTQM活動に生かされているかの詳細はご講演で明かされると思いますが、今後の活動の目標は。
寺尾:少し気が早いかもしれませんが、現在の活動の到達点の一つとしてデミング賞に再度挑むことです。40年前に企業の存亡をかけて取り組んだTQCは当社にとって初めてのデミング賞受賞という形で実を結びました。
 
 前編でお話しましたが、この受賞に至るさまざまな仕事や活動を通じて私はアイホンイズムを叩き込まれました。受審直前の準備期間の緊迫感や成し遂げた後の達成感はその時期を過ごした社員なら誰でも思い出すことができるはずです。入社早々にデミング賞に関わり、今こうして2度目のデミング賞受審に向けた職務に携わっているのも何かの縁でしょう。

――それだけに、活動を率いていく人材の育成が急がれますね。
寺尾:その通りです。TQMは人材育成を進める上での重点でもあるからです。活動の基盤となるサークル数は40年前の10から120に増えました。全社が一つになって経営の質を高めていくための基礎はできているのです。時代の大きな流れを把握し、適切な手を打つにはTQMに取り組むことが重要です。
 
 その一環としてリニューアル市場にシフトした営業体制を整え、それを支えるシステムとして「物件受注プロセス管理」が着実に成果を挙げています。さらに、その進化形であるAiSIS(Aiphone Sales Innovation System)の構築も進めています。

最後に、TQMの再活性化を通じて2度目のデミング賞受賞ができればこの上ない喜びであります。

・寺尾浩典氏 登壇のクオリティフォーラム2017詳細はコチラ 
 
・寺尾氏登壇「営業部門における品質経営の進め方」セッションの趣旨は  コチラ

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Profile

寺尾 浩典(てらお ひろのり)
アイホン 常務取締役経営企画室長。
1977年 アイホン株式会社入社。以後、2015年まで38年間営業畑一筋。入社と同時にTQCの洗礼を受け1981年デミング賞受賞を経験。神戸営業所所長、大阪営業所所長、大阪支店長等を経て、2007年執行役員営業副本部長、2009年取締役営業本部長、2015年から現職。

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