2.「最近の品質管理事情-海外企業(インド、タイ、アメリカ合衆国)から学ぶ-」<2016年09月28日>
中央大学 教授 中條武志
最近、インドやタイなどの企業が積極的にデミング賞実施賞に挑戦しています。
デミング賞は、PDCAサイクルなど誕生期にあった日本の品質管理に大きな刺激を与えたE・D・デミング博士に因んで1951 年に(財)日本科学技術連盟により創設された賞です。
デミング賞の中の実施賞はTQM(総合的品質管理)を実施して顕著な業績の向上が認められる企業または企業の事業部に対して授与される年度賞で、日本における品質管理を発展させる大きな力となりました。
方針管理、機能別管理、管理項目一覧表、工程能力調査、品質保証体系図、品質表などわれわれが現在使用している様々なマネジメント・ツールの大半が、デミング賞実施賞への挑戦の過程で生み出されたものです。
インドやタイの企業の品質管理の取り組みにはいくつかの共通点があります。
第一に、顧客にとって価値のある製品・サービスを提供する上で自社の強みをどう活かすかという明確な経営戦略を持った上で、これを年次目標、部門目標、個人目標へと展開している点をあげることができます。
第二の特徴はCFT(Cross Function Team)、SGA(Small Group Activity)、QCC(QC Circle)など、管理者・スタッフから第一線職場までの様々な階層での小集団改善活動とそれを通した全員参加です。各々の改善活動では、問題解決・課題解決のステップに従いながら、様々な統計手法・品質管理手法が活用されています。
第三の特徴は、人材育成と能力開発に力を入れている点です。どこの企業もそれぞれの職位・職種の人が持つべき能力を明確にし、その計画的な育成をはかろうとしています。
このような特徴はインドやタイの会社だけに限りません。
例えば、アメリカではBSC(Balanced Scorecard)とSix Sigmaを組み合わせた活動が、製造業に限らず、医療、教育、金融など様々な業種に広がっています。
BSCは目標を展開するための手法ですし、Six Sigmaは改善活動に関する研修・資格制度と一体になったプロジェクト型の小集団改善活動と言えます。
日本でも、1960~1980年ころにデミング賞に挑戦した企業の多くは、方針管理、小集団改善活動、品質管理教育をうまく組み合わせて成果をあげているという特徴を持っていました。
残念なことに、製造以外の部門の果たす役割が大きくなる中、活動の中心が次第に他に移っていってしまいましたが、最近の品質事故や不祥事を契機に、その重要性が見直され、営業、開発、間接などの様々な部門でこれらを実践するための取り組みが始まっています(例えば、e-QCC(evolution QC Circle:進 化したQCサークル活動)など)。
上記のような取り組みが成功するかどうかは、実践のための具体的なツールを持っているかどうかによります。改善活動やTQMの推進に直接携わっているわれわれとしては、様々な問題・課題に取り組む中から、問題・課題をうまく取り扱うことのできる改善のための手法や改善活動をドライブするための推進ツールを考えていくことが必要ではないでしょうか。