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BC-News(BC講師からのメッセージ)
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13.「PDCAサイクルのP,D,C,Aの中で、もっとも重要なのは何?」<2016年09月28日>

東京理科大学 名誉教授 狩野 紀昭 (25BCT(1963-64)書記) 
 
 
1.品質管理常識テスト 
 
昨年の夏頃に品質管理専門家の勉強会で、品質管理について話をせよというお招きを受けました。品質管理の研究、教育、あるいは推進に従事している海千山千の方々からどんな難しい質問が出てくるか分からないと震え上がりましたが、こちらも長年にわたり修羅場を潜ってきた経験から、恐怖心克服のためには攻めるが勝ちと、逆に、先制攻撃をかけることにしました。 
 
「試験」という言葉を使うのは余りにも刺激的で、かえって聞き手の闘争心をかき立て「やぶ蛇」になる可能性がありますので、「ご意見調査」というソフトな用語で講演の冒頭で次のテストを行ないました。 
 
問1.PDCAサイクルのP、D、C、Aの中で、もっとも重要なのは何か?一つだけ答えよ。 
 
問2.応急対策と再発防止策のいずれがより重要か。 
 
問3.抜取検査と全数検査はどちらがより有効か。 
 
問4.抜取検査のもっとも基本的な前提条件は何か。キーワードで示せ。 
 
問5.調節あるいは調整が行われている現場があった場合に、積極的に継続していくのがよいのか、できたら止めるように努めるべきか、「継続」「止める」のいずれが妥当か。 
 
後述するように大変面白い結果が出ましたので、すっかり味を占め、その後、あちこち(海外を含めて)の講演の際に、聴衆をからかい(?)、楽しんでいます。経営層向けの講演では、さらに次の設問を加えています。 
 
問6.TQMについての講演の演題としては、「TQMと経営」と 「経営とTQM」のいずれが妥当であるか。 
 
読者の皆さん、ここで、ご自身の回答をメモ用紙に記載して下さい。この結果については、後述することにして、次の話題に進みましょう。 
 
2.劣等生だったので品質管理が唯一の進路選択であった 
 
私は、学部3年生まで学外の活動(遊びを含めて)にのめり込み、あまり大学に行かなかったので、4年生になり、卒論の研究室を選ぶ段階で、希望した研究室の教授から断られ、一つだけ空席があった石川馨先生の研究室に入れて頂きました。誠にお恥ずかしいかぎりですが、石川研究室が品質管理を専門とする研究室であることは、入室してから知りました。3年生の時に石川先生の講義で学んでいるはずなのですが。多分、殆ど出席をせずに、試験前に良き友人が教えてくれた想定問題とその回答を丸暗記することで辛うじて合格させてもらっていたのでしょう。 
 
従って、私の品質管理は、4年生の時に書記として参加させて頂いたBCから始まります。「何故、品質管理を専攻することになったか?」という質問を時々受けますが、「劣等生だったので品質管理が唯一の進路選択であった」と回答しています。BC終了後、石川研の院生であるということで、出来が悪かったにもかかわらず、翌26BCから講師にさせて頂きました。若手育成のため二人講師制が全面的に実施されていましたので、直ぐに講義を担当させられました。一番、しごかれたのが、演習問題の作成でした。 
 
また、班別講師もやりがいがありました。担当する研究員を決める第1月班別研究会では、BCの修了年次の若い順に希望を言うことが出来ました。私は、データがあるのかないのか、あるとすれば、どんなデータがあるのかということに最大のウェイトをおいて、どの研究員を担当するか申し出ました。指導中も、BCで学んだ手法の内、どの手法が使えるのかに焦点を絞っていたように記憶しています。さらに、一つの手法だけの適用では満足せず、学んだ手法の中からできるだけ多くの手法を使うのが良いと決め込んだ指導をしていました。 
 
その後、博士課程に進学する頃から、石川先生や池澤先生の鞄持ちとして企業指導に連れて行って頂き、先生方の指導を傍聴させて頂きました。傍聴前には、BCで学んだ概念・手法絡みの用語が飛び交うものと期待しておりましたが、実際は、その企業の経営、技術、製造工程についての計画・目標に対して実績がどうかという話から始まり、そこで交わされる話の中には、殆ど手法の話は出てきませんでした。このような経験を通じまして、これまでの自分の班別講師としての指導法に問題があることに気づき始めました。しかし、「目的第一」であることは頭では分かっていても、行動は「手法ありき」で、この状況から抜け出すのには、相当な年数がかかりました。 
 
3.TQM推進の成功のための秘訣、TQM専門家としての成功の秘訣 
 
爾来、45年の歳月が流れ、東京理科大学を定年となり、本来なら悠々自適の生活をしているはずなの
ですが、年に20回前後、5ヶ月間位の海外出張を含めて、依然として品質管理から足を洗えずに“准”現役ということで仕事をしています。いずれも非常勤ですが、同済大学客員教授(上海、2006-09)、中原大学講座教授(台湾、2006-)、積水化学の監査役(2003-09)、コマツの取締役(2008-)というような要職(?)も仰せつかって来ました。 
 
このような経験を踏まえて、「TQM推進を成功させる最大の秘訣は何か?」、あるいは、「TQM専門家として成功する秘訣は何か?」と尋ねられたら、私は、迷うことなく「経営とTQM」で取り組むことだと答える事にしています。 
 
論理学の分野では、「A and B」と「B and A」は同値かもしれません。しかし、「経営とTQM」と「TQMと経営」は異なります。前者は、「経営が目的であり、TQMは手法」ということを暗示していますが、後者は、この関係が逆転します。ゴルフで言えば、14本のクラブの中から、できるだけ多くを使うことが重要なのではなく、適切なクラブをそれぞれの局面で選択して、ゴルフボールをホールに入れることが重要なのです。TQMにおいても、多くの手法を使うから価値があるのではなくて、当面している問題・課題を良く理解し、それに適した手法を選択して、適用していくことが重要です。 
 
私の新米BC講師時代は、まさに、「SQCと現場の問題」であって、「現場の問題とSQC」というスタンスは全くありませんでした。ここから、どう抜け出すかが、実務の面で成功出来るかどうかの最大の課題でした。 
 
もっとも、適切に手法を使えるようにするためには、それぞれの手法の背景(理論的根拠)、内容、適用範囲についての研鑽が極めて重要です。駆け出し時代には、殆ど毎晩のごとく日科技連で開催されていました色々な勉強会に出席していましたので、自宅で夕食を食べることは希有でした。勉強会では何時も何らかの宿題が若手講師には与えられ、先輩の先生方からしごかれました。 
 
これらの経験を通して、それぞれの手法の理論的背景について理解を深めるとともに、多くの演習例題を即座に解く訓練を受けました。この修業があったので、後に、「現場で何が問題となっていて、何を目的とするか」と言う点に企業指導の大部分の時間を割き、その点が明らかになれば、「どの手法を選択し、どう適用するか」については、それほど時間をかけることなく、指導が出来るようになりました。 
 
1980年代前半は、日本企業のTQCブームの時代でした。この頃の日経紙面で「TQC」という用語が取り上げられていなかった日は殆どなかったといっても過言ではなく、品質管理関連セミナーへの参加希望者に対して如何にお引き取りを願うかということが日科技連の職員にとって最大の仕事となったほどの大ブームでした。ところが、これらの企業の多くで、TQC推進は失敗に終わりました。その理由は、「TQCと経営」ということで、TQCが推進されたためでした。 
 
前節に記載しました問6については、これまでのところ、「TQMと経営」と回答される方が、「経営とTQM」と回答される方より、多いという結果です。もっとも、この設問は、経営者に対する「TQM
概論」の講義の冒頭でやることが多いので、何故、こんな設問がされるのか考えることもなく、「TQMについての講義中の設問だから“TQM”が先に出て来るのが自然だ」と状況対応で回答されている方もおられるようです。「経営とTQM」について、その意味することを考えて頂く刺激策としては、良い設問ではないかと自惚れています。 
 
蛇足:1960年代には、未だ、日本品質管理学会が設立されていなかったために、BC講師会およびその下部機構の種々の部会が、唯一の勉強の場でありました。 
 
4.再:品質管理常識テスト 
冒頭に提起したテストに戻ります。勉強会に出席していた品質管理専門家の方々(41名)の回答の概略は、次の通りでした。 
 
問1.P:17名 D:5名 C:9名 A:10名 
問2.応急対策:11名 再発防止:30名 
問3.全数検査:11名 抜取検査:30名 
問4.「サンプリング」:12名 「工程の安定」:7名  
「均一な品質」:4名   「n数」:3名 
「母集団が既知」:2名  「作業標準」:1名 
「ロット数」:1名    「判断ミス」:1名 
「工程作り込み」:1名  「ロットと母集団の対応」:1名 
「AQL」:1名 
問5.「継続」:9 「止める」:32名 
 
これらの設問に対する私の回答は次の通りです。 
問1.D  問2.応急対策  問3.全数検査 
問4.AQL(Acceptance Quality Level,お客が許容する不良の水準) 
問5.止める. 
 
コメント:  
問1.企業の実務において重要かどうかの基準は、「お客に役立つ」「お金になる」だと思います。どんなに立派なPあるいはCであっても、それだけでは、「お客の役に立たないし、お金にもなりません。」しかし、Dだけでは、「十分にお客の役に立てない、あるいは、余り大きなお金は得られない」かもしれないが、「若干はお客の役に立ち、お金にもなります。」品質管理にしろ、生産管理にしろ、歴史的には、Do-Do-Do-…で来たのですが、それをもっと価値あるモノにしようとしてP、C、Aが導入されてきたのであり、P、D、C、Aは対等ではなく、Dが一番基本にあり、そのDを有効で効率よくするためにP、C、Aがあるのです。私と同意見の人が5名いらしたことは心強い限りです。 
 
問2.この設問に対する一番簡単な例として、皆さんの自宅が火事になってどんどん燃えている場合を取り上げましょう。この場合に、「皆さんはどうされますか? 再発防止が大事だからといって、消
火せずに、再発防止のための火災の原因を追求しますか?」この設問を考えてもらえば、応急対策が如何に重要か、たちどころに明らかになるでしょう。まず、「応急対策を、しかし、再発防止を忘れるな!」です。75%の人が再発防止に回答しているというのは、品質管理の枠内での勉強のし過ぎかもしれません。 
 
問3.問4.私が、BCで検査について学んだことを思い出してみますと、殆どが抜取検査であって、全数検査については、何も思い出せません。BCを終了してから10年以上たって、近藤良夫先生から「「の」の検査」を学び、全数検査をやるからと言って、100%不良を発見するのは至難の技であることを体験しました。全数検査にも、そういう困難さがありますが検査の有効性という点からは、当然、非破壊検査が可能なものについては、全数検査の方が優れていることは言うまでもありません。この問に対する回答は、問4と密接な関係があります。抜取検査理論は、お客がある程度の不良を許容してくれること(表現方法は、po, p1と言ったり、AQLといったり、色々ありますが)を前提としていることを絶対に忘れてはいけません。AQLと答えられた方が一人いらしたことは、本質を理解されているという点から素晴らしいことです。 
蛇足になりますが、破壊検査が避けられない場合には、徹底的な工程解析を行い、プロセスで品質を作り込むことが肝要なことはいうまでもありません。この場合に、行われる抜取検査は、確認のためという程度のものであり、この検査によって品質保証をしていると思うのは大変危険です。 
 
問5.調節(調整)の話をする時にいつも使う例として、エアコンの話です。「どうして、冬には暖房を、夏には冷房をするのか?」という質問を投げかけます。これに対して、「夏は暑く、冬は寒い」「夏には太陽が近くなり、冬には遠くなる」等の回答が返ってきます。そこで「夏が暑く、冬が寒いのは何故か?」「もし太陽との距離が変わることが原因だとすれば、北半球と南半球とでは、夏冬が逆になることをどう説明しますか?」と畳みかけます。このような問答をくりかえし、「真の原因は地軸が23.5度傾いていることである」という解答に到達することが出来ます。この例で再発防止をしようとしたら、地軸の傾きを無くす必要がありますが、そんなことはできないので、エアコンで温度を調節しているのです。 
 
調節(調整)とは、「特性の変動を引き起こしている原因に対して、その変動を除去するアクションを取るのではなく、その特性に影響している別の要因を人為的に変動させて(コントロールし)、特性の変動を除去する」方法です。品質管理の世界では、調節(調整)は、できるだけ止める方向でやってきました。それは、再発防止による標準化ができるのであれば、その方が、多くの場合において経済的であり、管理が容易になるからです。また、調節で造られた製品が故障すると、修理前と同じレベルの品質が保証出来ないというような問題も出てきます。 
 
中には、どうしても原因を特定出来ても除去出来ないケースがあります。その典型的な例は、上述のエアコンに加えて、鉄鋼、セメント、石油精製等の素材産業に見られます。これらの産業の原料は、“神の恵みである”鉱石、農林水産物等の自然界から得られる不均一系です。“人間が神に対してアクションを取る”という大それたことはできませんから、均質な材料を製造する素材産業では、必ず何らかの調節プロセスが必要となります。このように原因が分かっていて、その原因の変動を除去する
ことが技術的、経済的でない、あるいは、適切でない場合の調節は許容せざるを得ないことが分かります。ところが、実際の現場に行ってみますと、特性の変動の原因を解明すること無しに、特性値が規格限界を満たすようにするために原因とは関係のない特性に影響力のある要因で調節しているというケースを多く見かけます。このような現実を踏まえて、品質管理では、調節については、まず、否定的に考えて、特性の変動の原因を解明し、再発防止に持っていく努力が必要だということを主張しているのです。 
 
以上の検討を踏まえますと、単に「継続」「止める」という単純な選択肢では不十分かもしれません。「特性の変動の原因を解明し、その原因の変動の除去が可能な場合には、調節を止めて、再発防止による標準化に持っていく。変動の原因が解明出来ても、技術的、経済的視点から原因の除去が不可能、あるいは、不適切な場合に限り、調節を継続する。」という回答がもっとも妥当だということになります。しかし、短時間に行う、一つのショック療法としてのテストであるという点から、上記の回答をご理解下さい。この点については、7割を超える専門家の方が、私と同意見ということは誠に心強いと思いました。 
 
結局、品質管理では、ドゥ(Do)、応急対策、全数検査等の重要性・有効性を否定しているのではなくて、それらが必要であることは教えるまでもない一般の常識であり、その常識に加えて、プラン(plan)、チェック(check)、アクション(act)、抜取検査等が必要であるということを主張しているのです。ところが、余りにも品質管理にドップリ浸かり過ぎてしまうと、前提となっている世の中の常識を忘れてしまうことがあります。 
 
5.結び 
 
因みに、冒頭の勉強会では、5点満点でそれぞれ自己採点をして頂きました。最高は2点で少数でした。大部分の方は1点、中にはゼロ点の方もおられました。この結果が得られてから、聴衆に対する恐怖心が薄れ、後の講演がやりやすくなりました 
 
皆さんの自己採点はどうでしたか。3点以上取られた方は、品質管理の知識を世の中の常識に融和させて身につけている方ということが出来るでしょう。これまでに国内外あわせると数百人の方をテストしてきましたが、最高は3点で4点以上の人は未だ出ていません。品質管理の教育を余り受けていない方の中に結構良い点を取る方がおられますのは、面白いと思っています。 
 
BCニュースということで、半世紀近くになるBCとの関わりの中で、私がBCから受けた恩恵と思い出に触れながら、特に、次の2点について、原稿をまとめさせて頂きました。 
 
―「経営とTQM」、「現場の問題とSQC」というように、目的を良く理解して、それに適した手法を適用していくことが如何に重要か。そのためには、日頃からのTQM、SQCを研鑽し、何時でも使えるレベルにしておくことが重要である。それと同時に、取り挙げられている個々の経営問題、現場の問題を本質的に理解する努力が必要となる。 
 
―世の中の常識だけで品質をはじめとした諸々の問題に取り組むと、色々な弱みが出てくる。その一番良い例は、「応急対策」であるが、これだけでは、同じあるいは類似の問題の再発が避けられない。そこで再発防止の重要性を品質管理では強調する。ところが、これを強調する余り、応急対策よりも再発防止の方が重要だという錯覚に陥ってしまう危険性があることを認識しなければならない。 
 
大変偉そうに書いてきましたが、全て私の失敗経験にもとづくもので、是非、皆さんにも共有して頂きたいと考え、まとまりのない駄文を書かせて頂きました。何かの御参考になれば幸甚です。何か、本稿をお読み頂いて、ご叱正・ご教示・ご感想等がありましたら、メールを頂ければ幸甚です。 
kano_n@kqro.jp 
お目通しいただき、ありがとうございました! 
 

 
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