21.「「ばらつきの管理」の再認識」<2016年09月29日>
岡山商科大 経済学部 経済学科 准教授 竹山 象三
品質管的考え方のひとつとして、「ばらつきの管理」「ばらつきを認めること」が、あげられます。
それに関して、私の理解は、測定誤差、実験誤差を超えた要因効果を見つけることが、ばらつきを管理することと、つい最近まで考えてきました。検定、実験計画法などは、まさに、そのことを意図した手法だと思ったわけです。取り上げた因子に設定した水準に対応した母集団を想定し、実験から得られるのは、サンプルの値だとして、母平均、母分散ではないから、検定によって、確からしさを確率で保証するのだと考えてきました。
しかし、このような手法が、なぜ、「ばらつきの管理」などと評されるのかがずっと疑問でした。前述の理解であれば、検定、実験計画法は、単なる、データ解析手法であり、実験の場を維持するためにばらつきを管理することはあっても、品質のばらつきを管理しているとは言えないのではないかと思っていました。(たしかに、管理図は、群内のばらつきを認めて、それ以上のばらつきを見出す手法ではあると思っていました。)
BCセミナーでの講義ではないのですが、ヒストグラムと管理図について講義を行う機会を年2回ぐらいもっています。当然、その講義の中で、層別ヒストグラムにも触れますし、管理図の群分けにも触れます。
その講義を毎年続ける中で、「ばらつきの管理」「ばらつきを認めること」の意味を再認識できたような気がします。それは、全体のばらつきを「原因のあるばらつき」と「偶然によるばらつき」とに分離し、「原因のあるばらつき」を低減可能なばらつきとして改善の対象とし、「偶然によるばらつき」は、現技術レベルでは、受けいれざるを得ないばらつきとして認めるということです。
実験計画法の演習問題では、因子の最適な水準組み合わせを求める問題がよく出されます。そのため、因子が有意となったとき、特性値の母平均をコントロールできる因子発見できたと考えます。しかし、この時、実験結果全体のばらつきを「原因のあるばらつき(因子の水準が変化したことによるばらつき)」と「偶然によるばらつき(実験誤差)」に分解できたと考えることもできます。
層別ヒストグラムでは、この見方はもっと明確になります。たとえば、二山形のヒストグラムが得られ、ある因子に着目して層別したところ、平均値の異なったふたつの一山形のヒストグラムが得られたとしましょう。この時、一元配置の分散分析的な考え方では、取り上げた層別因子は特性値の変化に効果があると考えますが、むしろ、全体のばらつきを「原因のあるばらつき(層別因子の水準が変化したことによるばらつき)」と「偶然によるばらつき(層内のばらつき)」に分解できたとの思いが強いのではないでしょうか。
実験において、取り上げた因子が特性値をコントロールできるか否かに注目しがちですが、着目した因子の水準変化が、「原因のあるばらつき」の原因であるか否かの検証になっているという目でみることも大事です。このような見方を大事にすることにより、検定、実験計画法などが「ばらつきの管理」「ばらつきを認めること」という考えの実践につながっているのだと考えるようになりました。
「わかりきったことを今更!」と思わる方々もおられるでしょう。しかし、長年、統計的品質管理の手法を講義しつつも、「ばらつきの管理」「ばらつきを認めること」の考え方を本当に理解していなかったことに気付きました。恥ずかしながら、最近の再認識として報告しておきます。