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BC-News(BC講師からのメッセージ)
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23.「管理図係数表の誤植について」<2016年09月29日>

神戸大学 稲葉 太一 
 
 
0.まえがき  
 私は、20数年前、BCに書記として参加させて頂き、その後、宿題やSTの仕事をさせて頂き、現在に至っております。この間、多くの皆さんにご迷惑をおかけすることはあっても、何か、お役に立てることがあったとは思えません。  
 今回、STで用いている数値表と、QC検定問題集に掲載されている数値表が異なっていることに気付き、最初は、自分の誤植だと思いました。しかし、調べてみると、其々の根拠となっている数値表が異なっており、ビックリしたのが発端です。  
 このとき、これは、私のような細かい事が気になって仕方がない人にとっては、どちらが正しいかをハッキリさせる意義がある、と直感し、「私が、この件については、正しいと思われる数値を提供し、叩き台となります。」と宣言した次第です。 
 正しいかどうかは、後日、どなたかが確認して下さることを期待して、公開することとします。この活動を通して、今までお世話になった方に、少しでもご恩返しができれば幸いです。  
 
1.はじめに  
 管理図係数表は、JISのシューハート管理図と、日科技連数値表の2つが有名であるが、これらの数値の末尾に、不一致がある。私は、この両者の数値表を用いて解答例を作成した事があり、このどちらが正しいのかに悩まされ、必然的に興味を持った。  
 この報告は、両者に表示されている数値の真値を明らかにし、不一致である値については、変更を求めるものである。以下に、真値の定義と、その根拠の概要を記す。なお、根拠の詳細は、現在「品質」への投稿中であり、必ず、何らかの形で公開する予定である。 
 ここでいう不一致は、基本的に2つの原因から起こっており、1つは逆数を表示する時の価値観の問題であり、もう1つは、範囲のモーメントであるd2=E(R), d3^2=E(R^2)の値の誤差からである。 
 
2.数値表に求められる表示 
誤植と一口に述べているが、今回の報告で主張している誤植は、2つに分類される。まず、1つ目の誤植は、1/c4 と1/d2 に見られる現象で、例えば、n=2での d2=1.128であるが、1/d2=1/1.128=0.8862 と表示すると、1/d2本来の真値 0.8865 と異なり誤植となる。 
数値表とは、安定した表示が望ましい。そのためには、途中で四捨五入することは望ましくない。たとえ、同じ数値表に d2 が掲載されているとしても、この表示桁を真値と考えて、これの逆数を求めるのは、複数の価値観を許す事になり、望ましいとは思えない。  
もう1つの誤植は、D1~D4 の数値である。これらは、d2とd3^2 のみから求められる。これらの値は、日本規格協会発行の「統計数値表(1972)」に正確な値が掲載されている。ここに記載されている、小数点以下7桁表示されている値を、すべて信用して計算すると、今回、報告する値となった。ちなみに、2つの数値表に掲載されている数値は、いずれもASTM(American Social Testingand 
Materials)に準拠していると明記されているが、大変残念なことに、ASTMの年号が記載されていない。私が確認しただけでも、複数の版が現存しているASTMに準拠するという記載が混乱の原因の1つであろうと推察される。今回の報告は、最新のASTMとも(確認できた範囲内では)数値が一致している。  
 
3.誤植の例 
nが5以下の誤植は、以下の4つである。 
1)n=3, D4=2.575が正しい。(シューハート管理図での誤植)  
2)n=5, D4=2.114が正しい。(日科技連数値表での誤植)  
3)n=2, 1/d2=0.8862が正しい。(シューハート管理図での誤植) 
4)n=3, 1/d2=0.5908が正しい。(シューハート管理図での誤植) 
これ以外の誤植の訂正された数値表は、以下を参照して下さい。  
URL: ******************** 
ID: ******************** 
PW: ******************** 
 
4.計算に必要なこと  
まず、c4には、ガンマ関数の 0.5, 1, 1.5, 2 などの値が必要である。これは、円周率3.14の平方根の正確な値があればよい。掛け算や割り算は、多倍長の考えを用いて計算した。d2とd3^2については、標準正規分布に従う確率変数n個の範囲Rの期待値と分散が分かればよい。統計数値表(1972)によれば、Rの密度関数が与えられているため、この積分を数値的に行うことが必要となる。私は、共同研究者の勧めもあり、Maximaという数式処理ソフトを利用した。このソフトは、フリーソフトであるが、有効桁が自動的に保証される機能があり、標準正規分布の分布関数やシンプソンの方法が組み込まれていたので、簡単に、種々のチェックを行うことができた。  
 
5.おわりに 
数値表の末尾の桁が異なっていても、実用上は、さほど問題にならない。しかし、問題集を作成したり、解答を作成したりする際に、異なる数値表が世に出ていることは、非効率を産み出す可能性があると思われる。その意味で、正しいと信ずる値を公開し、ご批判を仰ぎ、その過程で、正しい数値のみが流通する状況に変化することを願ってやまない。  

 
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