BC
76.BCと言えば、それは母集団<2023年02月17日>
東京理科大学 理工学部 経営工学科 講師
安井 清一(103BC・T修了)
安井 清一(103BC・T修了)
BCと言えば、何を思い浮かべるでしょうか。多くの時間に統計的方法が割かれ、毎月行われるテスト(ST)、ディスカッション付きの宿題、班別研究会などで、徹底的にデータ分析と問題解決法をしごかれるというのが特徴ではないかと思います。私はその中で、「母集団」というのが最も印象的です。
私は博士課程1年生の時、103BCに書記として受講しました。第0章技術者・スタッフとしてのTQMから始まり、次に、第1章データのとり方・まとめ方、第2章問題解決法ときて、第3章統計的方法の基礎に入ります。そこでは統計学の基礎を学びますので、母集団の説明があります。その時、「母集団という響き、久々に聞いたな」と思いましたが、その後の講義でも「母集団」という言葉が連呼されたことを大変印象深く記憶しております。
当時、私は直交表実験の解析法や管理図の研究をしていましたが、母集団からは遠ざかっていました。統計学の勉強は必ず母集団の説明から入りますが、検定、推定、数理と進んでいくと、いつしか、母集団という言葉は希薄になっていくように感じます。実際、統計学の研究において、「データは互いに独立で同一の正規分布に従う」というのが基本となっており、この文言から母集団を想像できたかと言われると、当時は全くと言わざるを得ません。統計学の研究では分析対象である母集団の存在をいつしか忘れ、品質管理の世界において、それが強く意識されて問題解決にあたる諸先生方の姿を見て、生きた統計学を感じました。
「母集団を代表するようにサンプリングする」というのもBCの合言葉だと思います。これは母集団とサンプリングの関係を明確に意識づけるものとして重要な言葉です。母集団全体からサンプリングすることは、実際には困難なことも多く、サンプリングできた範囲が事実上の母集団になることがよくあります。このことが意識されていないと分析がチクハグになってしまい、対策が奏功しないでしょう。まさに統計学の基礎の基を地でいくBCの姿勢が、統計的品質管理を今日まで支え続いてきた理由ではないかと思います。
このほかにも、BCでよく議論される話題として、実験計画法における誤差分散の評価があります。「要因効果の大きさだけ見るのではなく、誤差分散の大きさも考察する」というものです。これは実験自体が、考えるべき母集団として妥当かどうかを評価するということです。また、要因効果の大きさは誤差分散の大きさで評価することが統計学ですが、評価尺度である誤差分散にも注意を払いなさい、と教えてくれています。このような指摘は一般の統計学のテキストで見たことがありません。また、原材料ロットを変量の扱いから、成分量を測って回帰分析に持ち込めるようにするといったような知もBCの中に存在します。現在、私は班別研究会講師等でBCに携わらせていただいておりますが、講師になっても学ぶべきことの多いセミナーを超えたコミュニティだと思います。
昨今、データサイエンスが世間を賑わせていますが、その中で母集団やサンプリングを意識した話題があるでしょうか。データが比較的得られやすい環境になりましたが、データが新たに得られるたびに、母集団が変わっていることも往々にしてあるのではないでしょうか。このような時代では、母集団・サンプリングの意識が十分にないと認識やアクション・施策にゆらぎが生じ、データに振り回されるだけになってしまいます。それゆえ、BCはDX時代をも支える重要なコミュニティであると思います。
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