派遣責任者、参加者インタビュー:北海道大学病院Interview
臨床データマネジメントセミナー(CDM)
派遣責任者、参加者インタビュー 北海道大学病院 高度先進医療支援センター様
「プランニングから参加し、全体をデザインできるデータマネージャーの育成を目指しています!」
(派遣責任者:天野様)
北海道大学病院(北大病院)は、札幌市北区に位置し、創立は大正10年(1921年)でまもなく設立100年を迎える歴史を誇っています。北海道では、札幌医科大学附属病院とともに中枢病院として機能しており、北海道を代表する病院であることは改めて申し上げるまでもありません。
北大病院の中でも、高度先進医療支援センターは、新規治療法の開発から治験、標準治療をめざした臨床試験や細胞治療・再生医療など、様々な臨床研究の支援を行うことで新しい医療の発展に貢献することを目的に各種先進的な取り組みが行われています。
今般、高度先進医療支援センターのスタッフ2名が、日本科学技術連盟主催「臨床データマネジメントセミナー」を受講されました。今回、実際に参加されたお二人と派遣責任者の方に、そのねらいや感想、今後のデータマネジメント等、様々なお話をお聞きしてきましたのでご紹介します。
(聞き手:日本科学技術連盟 安隨 正巳)
派遣責任者:データ管理部門 特任助教 天野虎次様
参加者:データ管理部門 吉永 和美様
参加者:データ管理部門 秦 詩子様
100年に迫る歴史を持つ北の雄!
聞き手:まずは、貴病院の概要をお教えいただけますでしょうか?
天野:大正10年に創立し、数年後には設立100年を迎える歴史ある病院です。北海道大学医学部・歯学部付属の教育・研究施設として、"良質な医療を提供すると共に、優れた医療人を育成し、医療の発展と地域医療に貢献する"ことを理念としています。許可病床数は 946、職員数は1,352名(共に2012年5月現在)です。
聞き手:臨床研究中核病院をはじめ、特定機能病院、災害拠点病院、がん診療連携拠点病院など様々な指定も受けておられますね。
天野:はい。特定機能病院であるということは、高度な先進医療の開発を通じた医療の発展に貢献する責務を担っているということです。その実現のために重要な役割を担っているのは、高度先進医療支援センターです。
聞き手:高度先進医療支援センターは、具体的にはどのような機能を持っているのでしょうか?
天野:2007年、「治験管理センター」を改組・発展させて誕生しました。治験実施機能を充実させる一方、「自主臨床研究事務局」を発足させ、臨床研究に関する倫理指針に適合した臨床研究の実施体制を整備しました。引き続き、細胞治療・再生医療を実現するためGMP準拠の「細胞プロセッシングルーム」を開設、更にデータセンター機能を有した「データ管理部門」を設置して、科学性、信頼性の高い臨床研究の実施への体制を確立しました。このように、北海道大学病院で実施される臨床研究の支援、実施体制を強化する一方、「橋渡し研究支援推進プログラム」「未来創薬・医療イノベーション」などの北海道大学全体のビッグプロジェクトへの貢献も行っております。
聞き手:改めて、重要な役割を担われていることがよくわかりました。
日科技連「臨床データマネジメントセミナー」に参加
聞き手:今般、日科技連主催「臨床データマネジメントセミナー」に2名ご参加いただきましたが、いずれも高度先進医療支援センターのデータメネジメント業務携わっているスタッフの方ですね?
天野:はい、その通りです。
聞き手:今回の参加の目的やきっかけを教えていただけますでしょうか?
天野:私は、腫瘍内科の医師でもあるのですが、質の良いCRFを提出してもらうには、セミナーに参加してもらうことが一番良いと考えたのです。
信頼性の高い臨床研究の実施は、医師や研究者のみの努力で達成される時代ではなく、専門性の高い技術や知識、経験を有したスタッフによる支援が不可欠となっており、やはりDMスタッフにも成長して欲しいという思いも当然ありました。
聞き手:臨床研究において、データマネジメントの必要性と重要性が改めて叫ばれているような気がしています。
天野:はい。その通りだと思います。それは、ITの活用の面はもちろん、全体をデザインし、マネジメントできる人材が求められていることに他なりません。しかし、それを真に実施できているところは決して多くないと思っています。
聞き手:ご参加いただいた吉永さん、秦さん。どういう受講指示だったのでしょうか?
吉永:2012年9月頃だったと思います。セミナーのパンフレットを天野先生が持ってこられ、「参加してみたら」と。パンフレットを見て、こういうセミナーがあるんだ。受けられたらとても有り難いな、と思いました。と言いますのは、私はもともと医療業界の人間ではないので、どのようにスキルアップをしていけばよいのかな?と思っていたところだったのです。
秦:私も、吉永さんと同じ時期に天野先生からお話をいただきました。DMという職種に就いたのははじめてだったので、「DMとは何なんだろう?」って思っていましたし、他組織のDMの仕事の進め方や状況も知りたいと思っていたのです。
聞き手:結構早い時期に受講が決まったようですね!
秦:はい。2月に開催されたセミナーでしたが、11月には決まっていました。
「手厳しくやられて帰ってくること」が一番のねらいでした!
天野:私自身、臨床試験セミナー 統計手法専門コース(通称BioS)に出たことがあるんです。
聞き手:BioSセミナーといえば、統計専門家を1年間の期間で養成する日本を代表するセミナーです。
天野:はい。BioSセミナーを知っていたので、大橋靖雄先生(東京大学大学院)が委員長のセミナーに参加すれば、手厳しくやられてショックを受けて帰ってくるだろうと思ったのです。そうすれば、仕事で困ったときに自分で考えることができるようになると考えました。一つの仕事の流れとして全体を触れる機会は他のセミナーにはないと思いました。全体像を理解しないと、DMの業務もうまくいかないですからね。
聞き手:セミナーをお褒めいただきありがとうございます。しかし、そこまで考えて派遣されたのですね!
天野:タイミング的にとても2人はラッキーだったと思います。彼女らは、3名同期がいて、1名は他のセミナーを受講したばかりだったのです。それで、2名をJUSEに派遣したのです。
聞き手:お二人は参加してみて、いかがでしたか?
吉永:まず、参加する前は「初心者レベル」って天野先生から聞いていたのですが、講義のレベルがとても高かったです。こんなに頭を使ったのは久しぶりでした(笑)
特に演習に苦労しました。マニュアルチェックの仕方は何とかわかりましたが、2日目以降がデータマネジメントをデザインする演習だったのです。これが、さっぱりわからない…。同じグループの方に聞きながら、何とかこなしました。
秦:吉永さんと同じです。私にとってはレベルが本当に高かった。演習もそうなんですが、講義のレベルも高く、講義のスピードも早かったです。特に、マトリックスの講義はついていくのに必死でした。(笑)
聞き手:そうだったのですね。3日間という短期間の合宿研修でしたが、相当お疲れになったのではないですか?
吉永:はい。本当に疲れました。恥ずかしい話ですが、セミナーが終わってからの帰路、羽田空港で"自分へのご褒美"と思って、ちょっと高いお弁当を買ったんです。そして、機内で「さあ、食べよう!」と思ったときにお弁当がなかった…。
聞き手:えっ。なぜなかったのですか?
吉永:実は、買ったお弁当をレジに忘れてしまったようなのです…。お弁当を食べられなかったことも悔しかったのですが(笑)、こんなに疲れてたのか…、と改めて思いました。
秦:私も、セミナーが終わった瞬間、疲労感でいっぱいでした。(笑)
実は、参加前は、「講義中、眠くなったらどうしよう…」、と心配していたのですが、その心配は無用でした!それどころか、これはやばいぞ…、このままでは北海道に帰れないと…。
聞き手:天野先生 ここはねらい通りでしたね(笑)
CRO、製薬会社、他の大学病院の方々との交流が最高でした!
聞き手:では、セミナーで一番よかったところはなんですか?
秦:はい。何と言っても他社の方との会話が楽しかったです。
吉永:先ほど話したとおり、DM業務を行うこと自体が初めてでした。日頃、外部と接触する業務ではないのですが、こんなに学外の方と、しかもCROや製薬会社など普段接していない方々と情報交換が出来るのは、この先ないでしょうね。まさに、人脈構築ができました。知り合ったみなさんとは、今でも、メールでやりとりをしているんですよ。
聞き手:へぇ。今でも続いているのですね。素晴らしいですね!こういう部分が、外部研修の一番のメリットかもしれませんね。
秦:はい。そう思います。これはこのコースが合宿制だから、ということもあると思います。通学制だったら、ここまでコミュニケーションがとれたかわかりません…。昼休みにグループの方と一緒に、会場である椿山荘のお庭を散歩したりもしました。
聞き手:講師との交流も出来ましたか?
吉永:はい。初日に講師のお一人である新美三由紀先生(佐久総合病院)に、「こんな機会はないので、大橋先生と話をした方がいいよ!」と助言をいただき、大橋先生とお話しが出来ました。
聞き手:どの場面で大橋先生と話が出来たのですか?
吉永:二次会です(笑)。二次会は大橋先生のお部屋を開放いただいて実施していたのですが、大橋先生をはじめ講師や事務局のみなさまとたくさんお話が出来ました。
大橋先生と話ができる機会など、そうそうあるわけではないですから、本当に光栄でした。
"捨てる勇気"を持って、業務に取り組めるようになりました!
聞き手:ところで、3日間の研修内容が今業務に活きていますか?率直に言ってください!
秦:はい。実務に役に立っています。捨てる勇気を持てるようになりました。
聞き手:捨てる勇気…??
秦:辻井敦先生(ユーシービージャパン)の講義での言葉なんです。時間と人件費が限られていて、要求レベルを満たすために、優先順位を考えて、捨てる勇気をもてるようにと。常に心がけるようにしています。
吉永:私も役に立っています。新しい試験のデザインや、CRFを作るときの留意点…。受講前は、気がつかなかったことを注意して見られるようになりました。特に全体を見て業務が遂行できるようになった気がしています。
聞き手:他にセミナーの中で印象に残った言葉はありますか?
吉永:新美先生です。どの言葉が…、というよりは、すべて引き込まれました。講義ももちろん面白かったのですが、"自分も頑張ろう"、"少しでも新美先生に近づこう!"という気にさせられました。
聞き手:素晴らしいですね。どういうところがそう思わせたのでしょうか?
吉永:実は、このセミナーの直前に北大に新美先生が臨床試験研究会で見えていたのです。たまたまなのですが、その時にある発表会場の座長を務められていて、私は会場で聴講していました。
そのときの演者の魅力の引き出し方、聴講者への配慮など、周囲へのフォローをさりげなくされていて…。再会できたときは感動しました!
聞き手:まさに劇的な再会ですね!
吉永:はい。そう思います。
"DMという仕事のやりがいとおもしろさ
聞き手:素朴な質問をします。お二人はDMとしてご活躍のことと思いますが、大学病院という組織の中でDM業務の、やりがいや楽しさは何ですか?
秦:CRFマニュアルのチェック、クエリのチェックの後、先生から戻ってきた時にやりがいを感じます!先生方はお忙しいので、ほとんどがメールでのやりとりなのですが。CRFを見て意思の疎通が出来た!と感じた時は本当に充実感につつまれます。
でも、まだやったことのない仕事の方が多いと思いますので、まだまだDMとしてはこれからだと思っていますが。
吉永:とにかくDMの仕事って面白いです。「何が?」と言われると実はよくわからない部分もあるのですが…。秦さんと似た意見なのですが、CRFを送って返ってくるだけでも嬉しいです。遠くにいる先生方が書いて戻してくれる、試験の最終的な目標に向けて進んでいる。一体感のようなものを感じますね。
聞き手:天野先生 秦さん、吉永さんのセミナー受講後の変化や成長は感じられましたか?
天野:素人の域からは完全に脱しましたね。成長は感じます。これからは、業務の全体像の中で上司からの指示は"この部分だ"、と思えるようになる大局観を持つことを期待しています。
聞き手:本セミナーを後輩や同僚に勧められますか?
吉永:はい。自信を持って勧めても良いと思います。エネルギーを費やさなければついていけないので、本当に疲れますけど…(笑)
私の部門には7名のスタッフがいるのですが、そのうち、3名は私よりも経験が浅い方です。こういった方に是非受講してもらうとよい気がします。
聞き手:今後、貴病院からの派遣予定はいかがでしょうか?
天野:参加費がちょっと高いんですよね(笑)北海道からだと旅費もかかりますので…。でも、講師は非常にハイレベルですし、内容も先ほど行ったとおり充実していて、高く評価しています。したがって、予算があり対象者がいれば、できれば毎年出したいですね。
本セミナーは、データセンターを設置している病院には、とても有効だと思いますよ。また、CRCのセミナーは、薬理学会、がん治療学会にあったりしますが、DMのセミナーはあまり存在していないのが現状で、本セミナーはとても貴重だと思います。
秦:私自身がもう一度受講したいです。先ほどお話ししたとおり、本当にセミナー中は"いっぱいっぱい"の状態だったので、聞き逃している部分が多々あると思います。今度受けられたら、吸収率がまったく違うと思います。まあ、再受講は叶わないと思いますが…(笑)
聞き手:本日はざっくばらんにお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。
「臨床データマネジメントセミナー」は、11年目を迎え、ますます受講生、派遣元のお客様に喜んでいただけるよう、そして業務にお役立ちいただけるよう、これからもますますブラッシュアッしていきます。また、本セミナーのOB会のようなものの企画も検討しようとしていますので、その際は是非参加してください。
吉永、秦:OB会、是非参加したいです!
"今後のDMに求められるもの
聞き手:天野先生にお聞きします。今後のDMには何が求められてくると思いますか?
天野:いろいろあると思いますが、まず生物統計の基礎、コーディングは今後必須となってくるでしょうね。データの処理も、コーディングをした段階で行うことになるようになると思います。
聞き手:なるほど。統計とコーディング能力ですね。他には何かありますか?
天野:システム構築上の知識が求められてくるでしょう。紙でやっていた時代は、それを電子媒体に入力していましたが、これからは違います。今後、業務フローEDCを含めたものに変わってくるでしょう。
聞き手:これらは、本コースのカリキュラムには組み入れています。
天野:はい。知っています。プロトコルの検討、作成段階からDMを参加させているる点はとてもよいと思っています。作成をしてみれば、どこに穴があるのかがわかります。CRFを作っている側が、必要な項目を理解できるようになるのは、大きなメリットです。
聞き手:最後に、天野先生が考えられる、「今後求められるデータマネージャ?像」を教えていただけますでしょうか?
天野:データマネージャーは、さらに二極化してくる気がしています。一つは、研究の計画段階から参加をすることで効率的なデータ収集ができるようになる。つまり、プランニングから参加するスペシャリストです。今までの上流からEDCに移行することになるので、ロジカルチェックのしくみを考えられ、データハンドリングができるようになってもらえればうれしいです。
一方で、単純労働のDMも必要で、その人間が前者の下にいて、作業をすればよいのです。
しかしながら、現状はと言えば、前者のデザインを統計畑の人間が担っています。
聞き手:本日は、本当に参考になるお話をありがとうございました。