派遣企業インタビューいすゞ自動車株式会社Interview

「さまざまな業務に活用できるBC教育を継続し、品質教育の裾野を広げたい」
Giga Vehicle

いすゞ自動車は、1916年(大正5年)創業という日本国内の自動車メーカーでも、最も歴史ある企業の一つです。改めてご紹介するまでもなく、大型・中型・小型トラック、バス、自動車用ディーゼルエンジン、産業用ディーゼルエンジン等の製品を、日本のみならず世界中で開発、生産、販売しており、いすゞ社の商品が販売されている国や地域は百数十ヵ国に及んでいます。

近年は、高いレベルで均質化された商品をグローバルに展開するために、人と生産システムのレベルアップに常に取り組まれていますが、その実現のための手段として、社員への品質教育については古くから定評があります。その一つが、かつて関連会社を含めて展開していた、統計的品質管理を修得するための本格教育「いすゞ品質管理ベーシックコース」です。企業環境を取り巻く変化等もあり27年間休止していましたが、2012年から生産部門の品質管理担当部署を中心に、日科技連主催「品質管理セミナー・ベーシックコース(略称BC:Basic Course)※以下BCと記します」へ継続的に参加者を派遣し、その人数は4年間で60名にも達しています。

今回は、同社を訪問し、人材育成の想い、BC教育復活の経緯、新しい教育制度のお話等を伺ってきました。是非、多くの企業の方々にお読みいただき、品質教育と人材育成の参考にしていただければ有難く思います。

聞き手:日本科学技術連盟 安隨 正巳、鈴木 健二
*インタビュー:2015年12月

ISUZU

インタビューにご協力いただいた皆様

ISUZU-LOGO

執行担当 池田 寛 様(第2回いすゞBC卒業)

パワートレイン品質管理部 坂田 竜嗣 様(第122回BC卒業)

品質技術センター 渡邊 浩 様(第126回BC卒業)

品質技術センター 松本 淳 様(第127回BC卒業)

人材育成の3つのポイント-技術力・三現主義・お客様の目線

聞き手:まず初めに、御社のものづくり企業としての品質への想いをお聞かせいただけますでしょうか。

池田:私共には、「『運ぶ』を支え、信頼されるパートナーとして、豊かな暮らし創りに貢献する」との企業理念のもと、信頼をすべての基本とする品質重視の理念が創業当時から引き継がれています。

聞き手:創業当時から脈々といった、ということは、約100年にも及んでいるということですね。ものづくりをしている以上、品質は生命線というお考えなのでしょうか?

池田:その通りです。「品質をすべてに優先させる」という行動規範もあり、品質第一の精神は強いものがあります。

聞き手:それは長年に渡って積み上げられてこられたものだと思います。では、品質を作り込むうえで最も重要な要素はどの様なものとお考えでしょうか。

池田: ズバリ、「人」です。「もの」を実際に作っていくのは「人」だからです。人間の技術力と、その技術力を持った人材をいかに育成するかが品質確保のベースになると思います。そして技術力に加えて、三現主義に基づいた行動と、お客様の目線に立った行動とが、より良い商品づくりと品質確保に繋がると認識しています。

聞き手: まさに、品質管理の基本、考え方そのものですね。

池田: はい。そうだと思います。

聞き手: 人が重要な要素であるということは、教育とセットになっているのではないかと推察します。御社にはどの様な教育体系があるのでしょうか。

池田:今までも教育体系は存在していたのですが、2014年、全従業員の教育を司る「教育部」が創設され、基本的な階層別教育などを全社的に展開するようになりました。それとは別に、BCの様に各部門で必要とされる専門教育は、部門毎に計画を立てて推進しています。

聞き手:基礎教育と専門教育の二本立てということですね。その中で池田様はBCへの派遣をどの様に進めてこられたのでしょうか。貴社内で実施されていた「いすゞベーシックコース(以下、いすゞBC)」が休止になったようですが、派遣再開にはいくつかのハードルがあったのではないでしょうか?

池田:私はもともと生産部門の品質管理部に所属しており、若いころに品質教育の一つとしていすゞBC(前記)を受講しました。BCで身に着けた統計の基礎や問題解決のための論理的な思考法を業務に役立ててきましたが、後輩たちと会話する中で統計的品質管理に関するノウハウが備わっていないことに気づき危機感を抱きました。そこで、いすゞBCの卒業生でもある生産部門担当役員にBC受講を提案し、まずは生産部門を対象にBC派遣再開へこぎつけることができました。

池田:そうして派遣を再開して2年続けた後、2013年の10月にはQM担当という組織が出来まして、全社的に開発・生産・営業・販売・サービス部門の横串を通す活動を推進しています。更に2014年10月には、開発部門の中に「品質技術センター」という、先行技術開発を担える技術者育成を目的とする組織が出来、品質技術センターからBCへの派遣を始めました。これから他部門をどんどん巻き込んでいきたいと考えております。

品質技術センターの取組み「先行技術開発を担える技術者の育成」


松本 淳様

聞き手:今お話のあった「品質技術センター」は、技術者育成を目的とする組織とのことですが、具体的にどの様な取り組みをされているのでしょうか。

松本:私はフレーム設計、渡邊はブレーキを担当する部署に所属しておりますが、過去に各部署で起こった品質問題を題材にして、問題解決法を学ぶ活動を行っています。

池田:先行技術開発を担える技術者を育成することが品質技術センターの目的ですが、いきなり先行技術開発ではなく、まずは今起きている品質問題を三現主義に基づいてきっちりと解決する力を身に着け、ゆくゆくは先行開発を担える技術者に育てるという活動をしています。

聞き手:品質技術センターに所属する期間は2年間ということですが、本来は別の部署に所属している技術者の方が引き抜かれるわけですね。

池田:そうです。開発部門の12の部から1人ずつ優秀な技術者を集めています。

聞き手:各部の部長から、優秀な技術者つまりエースを引き抜かれることに対する抵抗はありませんでしたか?

池田:もちろん、ありました。活躍している技術者を抜かれると、もう今日から困ってしまうという部署もあったぐらいです。ですので、上長に本当に部下を育てたいという思いがないと、なかなか出せないと思います。そこで人選は各部署の長にお任せしました。

聞き手:2年が終わり、来年のご卒業後は、それぞれ元の配属部署に戻られて活躍されるわけですね。ということは、また違う方が12名、品質技術センターに配属されるわけでしょうか。

池田:そうです。来年の10月から第2期生が入る計画で進めています。とても時間のかかる取り組みですが、人材育成は一足飛びには出来ませんので、継続して種をまいて行きたいと考えています。

聞き手:これが軌道に乗れば間違いなく成果が上がっていくはずですね。と同時に、品質改善のスペシャリストの輪が広がり、組織のDNAとなっていくことと思います。

BCの受講指示を受け、「チャンスだ!」と思いました


坂田 竜嗣様

聞き手:御社から4年間で60名もの方にBCを受講して頂いております。また、毎年最優秀賞(BC賞)もしくは優秀賞を受賞されています。

池田:受けるからにはしっかり身に付けて貰いたいと思っています。私自身もBCを受講していますので、楽な研修でないことは分かっておりますし、努力しないと身に付かない事を実感しています。

池田:またフォローアップが重要です。毎月、日科技連さんから送られてくる成績表(受講者カルテ)を診てフォローしています。上長が「ちゃんと診ているぞ」「期待しているぞ」という姿勢を見せないと、受講生の自律性だけで受講を進めるのはなかなか難しいものだと思います。

聞き手:素晴らしいですね。最近では、賞を受賞されなかった受講生の方の成績も着実に底上げされています。

聞き手:それでは、BCを受講された順番にお尋ねします。坂田さんはBCコースそのものをご存知でしたか?

坂田:知っていました。私の上長がBC卒業生でしたし、受講当時の部長が池田でしたので、非常に厳しい研修だとは聞いていました。また池田から受講前に心構えを教えてもらいました。

聞き手:BCを受講するということを初めて聞かされた時、どう思いましたか。

坂田:私は、品質管理部という日常的にデータを扱う部署にいますので、日々の仕事から離れた環境できっちりと学べる機会を与えられたことは、チャンスだと思いました。

聞き手:とても前向きですね。渡邊さんは品質技術センターに異動される際に、BC受講は聞かされていたのですか。

渡邊:品質技術センターからBCへ派遣されたのは、私が一期生にあたるのですが、BC受講を聞かされたのは品質技術センターへの異動が分かってしばらくしてからでした。ですので、10月開講のBC受講を聞かされたのは10月に入ってからでした。

聞き手:BC受講は数週間前に聞かされたということですね。松本さんはいかがですか。

松本:私も渡邊と同じタイミングでBC受講を聞かされました。

聞き手:松本さんは渡邊さんと半年間ずれたタイミングで受講されましたが、これには理由があるのですか。

池田:品質技術センターは全員で12人ですが、12人全員が一度にBCを受講すると活動に支障をきたしますので、半分の6人ずつ受講する様にしています。そして2年間の研修の期間中に効果を上げる様に、初めの1年間で12人全員が卒業するプログラムにしています。

BCの講義の印象、受講して良かったこと


渡邊 浩様

聞き手:みなさまにお尋ねしたいのですが、最初にBCの講義を聴いた際の印象はいかがでしたか?

坂田:私の場合は特殊でして、通常の開講月に受講が間に合わなかったのです。いすゞ自動車の受講生だけで第1月の補講を特別に受けさせてもらいました。以前にBCを受講した人達の話を聞けていなかったので、
どの様なカリキュラムなのだろうかと、期待が半分、不安が半分でした。

聞き手:渡邊さんと松本さんのお二人はBCのイメージが出来ていたかと思いますが、印象はいかがでしたか。

渡邊:初めは半年間の研修と聞かされて拒否反応がありましたが、最初の永田先生の講義が興味深い内容でしたので、これから面白い講習が始まりそうだという印象を持ちました。

松本:初めにBCの全体像を面白くかつ経験をふまえてお話しして頂けたので、「これを身に付けたらとても勉強になるな」とやる気が出ました。しかしその週の最後には講義の進行から置いていかれました。どうしようと焦りました(笑)。

聞き手:そうですか。先輩方の言っていた「BC受講はためになりそうだ」という事は間違っていなかったということでしょうかね。今度は松本さんから、6ヵ月間受けてみて良かった点をお聞かせください。

松本:時間をかけて問題解決手法を学べたのは良かったです。今の業務で即実践できると思います。また設計業務では実験データを用いて強度検討する事がよくあります。BC受講により統計的手法を教わった事で、実験データのばらつきに対し、きちんと論理的に考察できるようになった点が良かったと思います。

渡邊:松本と重なる部分がありますが、これまで設計図面の公差のばらつきについて深く考える事はありませんでしたが、BC受講によって、ばらつきの重要性が理解できました。また半年間、ST・班別・宿題と大変な研修でしたが、大変だった分、達成感と身に付いた実感とが大きく残っています。

聞き手:有難うございます。坂田さんはいかがでしょうか。

坂田:普段行っていたデータの取り方・集計・解析の仕方に、どの様な意味と目的があるのかを、製造現場の方に伝えることが出来る様になりました。

聞き手:目的を説明することによって、現場の理解が高まり協力度も増したのではないでしょうか?

坂田:はい。変わりましたね。データの意味合いについて会話しながら依頼す ると、協力も得られやすくなります。やはり、何事も目的を理解してもらうと違うのだと思いました。

班別研究会は大いに刺激となりました!

聞き手:BCの最大の特長といえる班別研究会についてお聞かせください。

坂田:私たちの時は遅れて第2月から受講したため、いすゞ自動車の受講生だけによる班編成となり、他社の方との交流が出来なかった点は残念でした。講師の皆さんは現場経験が豊富で、現場で起きている問題をよく理解して頂きました。班別研究会での経験は今でも業務に活きています。

渡邊:私たちの時は異業種の方と一緒でしたので、異業種における問題解決を勉強できたのは貴重な体験でした。
また担当講師の方が機械の分野に詳しく、私の案件に対しても的確なアドバイスを下さり、問題解決に至ることができました。

松本:異業種の方との交流は刺激になりました。また、講義で習った手法を実際に使うことが出来た点が特に良かったと感じています。

社内広報誌(いすゞしんぶん)での告知と反響

聞き手:パワートレイン品質管理部から田中さん(123BC)、清谷さん(124BC)が連続してBC賞(最優秀賞)を受賞された際、社内広報誌(いすゞしんぶん)で告知されていらっしゃいますが、他部門への反響はありましたでしょうか。

池田:いすゞしんぶんは全社員が目にしますので、インパクトはありました。いすゞBCを受講した世代の者から、「BC再開したの?」「自部門の人間を受講させたい」という問い合わせが寄せられました。BC受講再開を知らしめたという意味で反響がありました。

聞き手:なるほど。今ご派遣頂いているのは、品質技術センターとパワートレイン品質管理部からですが、新たにデータ活用推進部からもご派遣がありました。

池田:データ活用推進部は本社の組織で、お客様の車に搭載した「みまもりくん」から集められたデータをどう活用するかを担当しています。BCの内容が役に立つと思い、また当部署の部長がSQCの素養を持っているので、私からBC受講について水を向けてみましたところ、派遣に繋がりました。受講の輪を広げていきたいと考えています。

聞き手:素晴らしいですね。順調に計画が進行している様にお見受けします。


優秀賞受賞の隠れたエピソード

聞き手:もし受講時のエピソードがあればお聞かせください。

松本:私事ながらBCを受講した時は妻が身重で体調が優れない日も多くありましたが、家でも勉強に専念させてくれました。妻の協力には今でも感謝しています。

渡邊:私も受講中には妻に協力してもらいました。子供を寝かしつけた後、テキストのマーカーを引いた部分を読み上げてもらい、STの対策に付き合ってくれました。

聞き手:とてもよい話ですね。お二人とも、奥様のご協力なくして優秀賞受賞は成し得なかったのかもしれませんね。

BCへの今後の期待

聞き手: 今後、いすゞ自動車がBCに期待することは何でしょうか。

池田: 期待の前に要望をお話ししたいと思います。私が受講したおよそ30年前は、今ほどパソコンが普及していませんでした。関数電卓を一晩中叩きましたし、ヒストグラムを手書きする事で級分けの意味を理解しました。それに対して今は非常に便利になり、苦労して身に付ける、あるいはデータの有難みを感じるという経験が失われている様に思います。今は簡単に答えが求められてしまうので、1回は手計算を行い、間違って覚える経験(試練)をBCで積んで欲しいと思います。

池田: 次にBCに期待することですが、カリキュラムに異存はありません。課題はむしろ私たちにあり、派遣を継続し広めないと意味がないと考えています。ブランクがあって再開したという歴史がありますが、職場に言葉が通じる仲間を増やさないと、またゼロに戻ってしまうのではないかという危機感を持っています。

聞き手:「共通言語」を作るということでしょうか。やはり企業の持続的な発展には、継続することが重要ということなのですね。お話にあった、いすゞBC休止の期間はどれ位だったのでしょうか。

池田:27年間です。

池田:そうです。したがって、残念ながら今の部長・課長クラスにはSQCに関する知識が不足している人たちが見受けられます。今育てている人たちがマネジメントクラスになるまで、どんどんBC卒業生を増やしていきたいと思います。これが、現場力の強化に必ずつながるものと信じています。

聞き手:本日は、参考になるお話を有難うございました。