派遣企業インタビュー
サントリービジネスエキスパート株式会社Interview
改めて紹介申し上げるまでもなく、サントリーは、1899年(明治32年)創業という、日本でも有数の歴史と伝統を誇る企業です。現在でも、「ザ・プレミアム・モルツ」「金麦」「オールフリー」をはじめ、ウィスキーやワイン、ブランデーやリキュールなど様々な飲料の製造を行い、ヒット商品も数多く産み出しています。
同社のグループワイドでの品質に対する取り組みは広く知られていますが、その根幹となる品質管理教育体制の充実度も特筆すべきものがあります。その中でも、日科技連主催「品質管理セミナー・ベーシックコース(略称BC:Basic Course)※以下BCと記します」へは、35年間で250名を超える受講者を派遣し、その取り組みは今なお健在です。
聞き手:日本科学技術連盟 安隨 正巳、鈴木 健二
インタビュー:2014年7月
サントリービジネスエキスパート株式会社
品質保証本部 品質保証推進部 課長 細野 秀和 様(第91回BC卒業)
品質保証本部 品質保証推進部 友清 貴哉 様(第124回BC卒業)
サントリーホールディングス株式会社
生産研究企画部 課長 入江 秀和 様(第109回BC卒業)
サントリー酒類株式会社
ビール事業部 生産部課長 吉田 学 様(第76回BC卒業)
ビール事業部 生産部 熊谷 武士 様(第123回BC卒業)
スピリッツ事業部生産部 佐藤 大 様(第122回BC卒業)
『創業以来の品質へのこだわりと品質方針「All for the Quality」』
聞き手:貴社の品質へのこだわりと品質管理の取り組みは広く知られていますが、そのあたりからお話を聞かせていただけますでしょうか?
細野:私は、サントリービジネスエキスパート(株)で全社の品質保証の推進部門に属していますので、私から説明をします。1899年の創業以来「お客様第一」の姿勢で、お客様に安全で安心な商品・サービスをお届けし、喜びと幸せに少しでも貢献することが、ものづくりを行うメーカーの使命であるという考えが根底にあります。
聞き手:1899年といえば明治時代ですね。創業115年を迎えられるということは、すごい歴史です。
細野: 現在でも、創業以来のこの品質に対する想いを受け継ぎながら、サントリーグループ品質方針「All for the Quality」を制定し、全社員がこの品質方針にしたがって日々の仕事に取り組んでいます。
聞き手:「All for the Quality」とは、どのような方針なのでしょうか?
細野:お客様の声に誠実に耳を傾け、商品やサービスの企画・開発から水や農産物などの原料調達、製造、流通、販売・飲用時・飲食時に至るまで、すべてのプロセスで品質の維持・向上を図るための方針です。
聞き手:なるほど。すべてのプロセスで品質の維持・向上なのですね。
細野:特に、お客様に信頼されるものづくりのためには、科学的根拠に基づいた安全の裏づけが不可欠です。私どもの安全性科学センターでは、原材料や商品の安全性を、社会的にも認められる科学的アプローチと最先端の評価技術を用いて、公正に評価を行っています。「All for the Quality」のもと、これからもお客様に安全で心に響く商品・サービスをお届けしていきます。
聞き手:そのための組織も構築されているのでしょうか?
細野:はい。サントリーグループ全体の品質保証活動を推進し、グループの社会的信頼性の維持・向上を図ることを目的として「品質保証委員会」を設置して、品質向上の取り組みの具現化を図っています。
吉田:ものづくり企業である以上、“品質は命”だと思っていますので。
BCコースに35年間で250名以上の参加!
聞き手:その中で、本財団主催BCはどのような位置づけとされているのでしょうか?
細野:モノづくり企業において品質管理は必要不可欠なので、品質教育の一環としてサントリーグループ各社の生産部門、研究部門約1000名を受講対象にしています。
聞き手:貴社からBCへの参加実績を調べてみたのですが、35年以上前からのべ250名を超える方々に受講いただいていることがわかりました。
細野:はい。そのくらいは派遣していると思います。とりまとめは、サントリービジネスエキスパートが行っていますが、毎年募集枠に対してそれを超える受講希望が寄せられていて、“うれしい悩み”を抱えています。
聞き手:それだけ、BCコースは貴社内において普及・浸透されているということですね。大変有難いお話です。
吉田:ビール部門(サントリー酒類(株))では、3年先まで受講者が決まっています。教育計画に組み込まれていますね。
聞き手:3年先まで決まっているのですか!
吉田:ビール部門の生産、研究に関わるスタッフで実務経験3~4年目の者は、基本的にBCを受講してもらうというスタンスです。
細野:やはりビール部門がグループ内では受講の中心部門ですね。
友清:最近では、サントリー酒類(株)に加えて、サントリー食品インターナショナル(株)からの申し込みも増えています。こちらは、部門内のBC卒業生から受講を勧められて申し込むケースが多いようです。
聞き手:今年度(2014年度)5月にスタートした第125回コースでも、サントリー食品インターナショナル様の2名を加え、合計5名の方にご参加いただいていますが、前向きな受講姿勢はとても目立っています。
BCを評価している点
聞き手:BCは参加費が約50万円で半年に渡る長期コースです。貴社にこれだけの方を派遣いただいており、本当に有難く思いますが、当コースを評価していただいている点はなんでしょうか?
細野:BCのように、品質管理を体系的にまとめて学習できるセミナーは他にはないのではないでしょうか?また、機械、自動車、電機、食品など他業種の同じ立場の参加者と交流できる点も良いです。私も班別研究会で、サントリーでは扱わない様なデータや課題にふれることができ、貴重な体験をさせてもらいました。
熊谷:私も同意見です。これだけ長期間で本格的に実務に役立つ品質管理を学べる機会はないと思います。
吉田:エンジニアやパッケージに関する業務の担当者と異なり、ビールの中身を扱うのは農学部出身の方が多いので、BCの講義内容は有益かつ、有難いものだと思います。
BC受講によるさまざまな効果
聞き手:BC修了後に、「実務で役立っている!」と感じる場面はありますか?
熊谷:私は、ビール事業に在籍しているのですが、役立つ場面は常に感じますね。学んだ内容を工場に持ち帰って展開を試みましたし、工場とのやり取りにおいて、データの見方やバラつきの考え方をふまえた議論ができる様になりました。
佐藤:私は、現在はスピリッツ事業部ですが、ビール生産部に入社して3年目に受講しました。当初は機械の設備設計のエンジニアを務めていました。大学で通信工学を専攻していましたが、分布程度の知識を持っていただけでした。それがBCではツールとして実務でどう統計を活用するのかを学べたので、とても新鮮でした。
聞き手:本格的に統計的品質管理(SQC)を学んだことがなかったとのことですが、SQCに必須の「数式」にはスムーズに入っていけましたか?
佐藤:いいえ。少し「数式アレルギー」気味でした(笑)。しかし、修了後、品質管理部門の方と議論をする際に、議論に出てくる品質管理の言葉が分かるようになったので、受講が実務で役立っていると感じます。
細野:私も、修了後に「言葉が分かる」ようになったと感じたのは同感です。BC受講前、例えば「工程能力」の意味を漠然とイメージで捉えていましたが、受講により正確な意味や見方を理解できました
友清:私は入社以来、工場の現場経験はありません。BCの全社派遣担当者として、品質管理や品質保証を体系的に学べたことが良かったですね。また、工場や研究所から上がってくるデータの読み取り方や判断ができるようになり、品質保証部門として、上がってきたそのデータをどう判断すべきかが分かる様になりました。
細野:今の話を補足しますと、製品表示の妥当性や、ある製法の法規適合性を判断する業務において、表示案の根拠として客観的な証拠があるのか、といった議論を行います。その議論において、データの妥当性を判断できる様になった、ということです。
入江:私は、設備設計のエンジニア出身です。大学時代は統計の勉強をしたことがなかったので、統計には多少の苦手意識がありました。その苦手意識を克服する意味で、BC受講は役立ちました。
聞き手:苦手意識をよく克服されましたね!
入江:入社3年目に受講のチャンスがあったのですが、業務の都合で逃してしまい7年目に受けました。ですので、なおさら大変でした(笑)。しかし、講師の指導はわかりやすかったこともあり、なんとか付いていけました。
細野:これも人それぞれかもしれませんが、私の場合は、弱点を克服するのでなく、BCを卒業したからには、「統計が不得意です」「知りません」とは言えなくなりますので、それが私にとっての励みとなりました
吉田:BCの受講は楽しかったです。夜の懇親会だけでなく、習った内容のいくつかを工場で実際に使うことができた点も良かったです。ただ、宿題は大変でした…。
聞き手:BC受講中、カリキュラムでつまずいたことはありますか。
友清:3月目から講義内容が一気に難しくなった印象を受けました。特に実験計画法は難解で、宿題を解いてようやく理解できたという感じでした。
細野:壁にぶつかるタイミングは人によって違うかもしれませんね。私は、ノンパラメトリック法がこれまでの手法とどう違うのか、初めのうちは理解できませんでした。
班別研究会という“場”
聞き手:BCでは、班別研究会という、自社の品質問題から業務に関係の深い改善テーマを選び、研究を進める科目が毎月ありますが、いかがでしたでしょうか?
友清:同グループの参加者や講師との交流が大いにできたのは本当によかったです。今まで関わったことがない業種の方から、現場の事例を聴けたことは貴重でした。
聞き手:当時のメンバーとは今でも連絡をすることはありますか?
友清:はい。あります。今でも交流が続いていて、先日も同窓会を開いたばかりです!
聞き手:それは、素晴らしいですね!そのときのメンバーは、今でも友清さんにとってのかけがえのない財産ですね。
入江:私も、同世代の人達が抱える問題にふれることができた点が良かったです。講師や班のメンバーの方と毎月のように飲みに行ったことも楽しかった思い出です。
「品質管理 通信講座」を技術系スタッフの基礎教育に
聞き手:BCの他にも、サントリーグループでは、3年間で計160名も通信教育を受講して頂いております。
入江:私が現在所属する生産企画部では、人材の採用や研修の企画、実施を行っておりますが、日科技連の通信教育は基礎教育として受講するしくみをとっています。当社の技術系スタッフであれば最低限知っておくべき内容ですしね。
友清:私のときは、通信教育は全社員が受講を義務付けられていました。
サントリーグループにとっての“ビタミン”
聞き手:それにしても35年以上、同じコースに派遣し続けることはすごいことだと思います。その間、企業を取り巻く環境も変化していますし、品質担当役員や教育担当者も替わることと思います。継続の秘訣はなんでしょうか?
細野:サントリーの場合は、自動車・機械業界等の様に、SQC手法を用いる環境に恵まれているわけではありません。OJTで、SQCの教育を維持していくのが難しい現状の裏返しとして、BCに継続して社員を派遣していると言えるかもしれません。エスキモーがアザラシの肝を食べてビタミンを補給する様に、BCはサントリーにとってのビタミンとして、常に一定量は補充しなければいけないのかもしれません。
聞き手:エスキモーがアザラシ…?
吉田:細野さんの言っているイメージは分かりますね。会社として頻繁にSQCを使っていれば、外部の研修に行かなくても良くなると思います。今思い出したのですが、私はBC受講当時「サントリーさんは、毎年たくさん受講しているのだから、卒業生が社内で教えたらいいじゃないですか。日科技連のコースに出てこなくても」と講師の方に言われました。
聞き手:そのとき、その講師の方になんと答えられたのですか?
吉田:そのときは、明確には答えなかったような気がします。
しかし、データ、品質、信頼性…。ものづくりをしていく上で失ってはならないことを繰り返し6ヶ月の間に叩き込まれるのです。やはり、これからも継続的に参加者を送り続ける必要があると思っています。
細野:身につけたものでも、使わないと忘れてしまうと思います。優秀だけれど、実践しないことで忘れてしまった人もいると思います。グループ全体としての積み上げとなりにくいので、毎年新たに派遣するのだと思います。
友清:確かに、BC同期生の方で、社内講師を担当するという方がいましたが、サントリーにはその様な制度がありません。だからこそ、外部に出ないと、途切れてしまいますね。
BCの受講は、心が洗われる体験!
聞き手:BC卒業後、後輩の方にもBC受講を勧めたいと思いますか。
細野:思います。私にとって、BCの受講は心が洗われる体験でした。 「うまい」「まずい」とは別世界と申しますか、「データ」「現場」「信頼性」等に基づいて機械屋さんが製品を送り出していることに感動しました。この様な体験をする人間は、継続的に何人かいた方が良いと思います。
入江:私も思います。今回、自社のBC卒業生のリストを初めて見せていただきましたが、半年間の苦労を乗り越えた連帯感を感じますね。
聞き手:今後、BC卒業生の会(OB会)がサントリーグループ内で創設されるといいですね!連帯感がさらに高まると思います。
今後期待すること
聞き手:今後、サントリーグループがBCに期待することは何でしょうか。
細野:コース自体に対する期待というよりも、サントリーがBCをこれからどう活用していくか、ということになるかと思います。今日、久しぶりにカリキュラムを拝見すると、品質管理のコアとなる要素は昔から変わらず、安心感があります。品質管理の柱となる部分をぐらつかせないで、BCを継続して頂きたいと思います。
聞き手:BCに限らず、品質管理に関して日科技連に期待することがあれば教えてください。
友清:Cost of Quality に関する実践的な1~2日間のセミナーを開催して欲しいとの要望を受けています。これは、海外で品質管理を展開しようとした場合、コストに関して納得のいく答えを用意しておく必要があるからです。日本の考え方を押し付けても難しい様です。
聞き手:本日は、参考になるお話を有難うございました。